TRiP
□素晴らしいまでの直角
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Side-M
まァ、リンゴの臆病さは仕方ねェのは確かだし、苛立ちを露わにした俺の態度が大人気ねェモンだったのは自覚してる。
それも踏まえて、一応謝っておくかと踵を返してリンゴの部屋の前に戻って扉をノックした。
…が、返事がねェ。
あんな貧相な身体でも一応女だし、勝手に入るのも気が引けたが…まァ仕方ねェかと『入るよい』と一言掛けてからドアノブを回す。
チラッと中を見るがリンゴの姿は見当たらねェ。
部屋の中を見渡し、まさかこの短時間で異世界に戻ったのかと一瞬思ったが…。
「…イイ度胸してるじゃねェかよい。」
天井から吊り下げられたベッドから寝息が聞こえ、まさかと縄梯子を登ったら案の定、リンゴはスヤスヤと寝てやがった。
ピシッと米神に筋が入った気がしたが、きっと気のせいでも何でもねェのは確実だろう。
このアマ…ッ!と引き摺り下ろしてやろうかと思い、手をコイツの首根っこに伸ばそうとすると…。
「…ふぇ…うっ…。」
リンゴが寝ながら泣いているのに気付いた。
自分でも驚くくらい手をビクリと揺らし、全身が固まった。
何の夢見てんのか?と疑問に思い、リンゴの口元に耳を近付ければ『誰か、助けて』と言ってるのが分かる。
そうだ、コイツは。
いきなり何も分からねェような異世界に来て。
海賊に捕まって身包み剥がされて。
船が浸水するという恐怖を味わっている。
…怖くなかった訳がねェ。
それに恐らく、親父を見た時の様子じゃア身体がデカい奴を見たこともねェだろう。
現実に頭が追い付いてねェとこに、不機嫌な男が世話役になっちまって、不安で仕方なかっただろうに。
「…大丈夫だよい、リンゴ。大丈夫だい。」
俺は思わず。
リンゴの頭に手を伸ばして。
やわやわと髪を梳くようにして撫でた。
『大丈夫』と声を掛けながら何度か手を往復させていると。
リンゴはへにゃりという擬音がピッタリな笑みを浮かべて。
その顔が少しだけ、可愛いななんて思っちまった。