TRiP
□私の部屋が出来ました
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Side-M
苛々する。
何故かだって?
ンなモン決まってんだろ?
あのリンゴとかいう異世界人の女のせいだ。
「くそっ…何だって俺が世話役なんだよい!」
「おーおー、随分荒れてんなァ。」
「…何だ、サッチかい。」
「おま、何だとは何だ!失礼だぞ!」
サッチへの無礼さは今に始まった事じゃねェだろうと、些か呆れながら顔を見れば、何やら楽しそうにニヤ付いてやがる。
そういや、コイツも俺を苛つかせる天才だったなと、心底嫌そうに溜め息を吐いた。
「だァかァらァッッッ!!それ失礼だろって!」
「…何の用だよい。」
「何?無視?俺の叫びは素通り!??」
五月蝿ェ奴だと首の後ろをポリポリ掻いてると、サッチが口許に手のひらを添えてヒソヒソと聞いてきた。
「…で?異世界人の彼女どんな感じよ?」
あァ、そんな事か。
どんなもこんなもねェ…あんな軟弱なチキンは久々に見た。
陸で生きる人間みてェに、弱いからって戦いもせずに…戦おうともせずに、強いモンにヘコヘコ媚を売る奴等と同じだ。
別にそんな人間なんざ沢山いるし、いちいちンな奴等に苛々してちゃア胃が持たねェってモンだが。
リンゴは違ェ。
このモビー・ディック号に乗っているんだ。
船員じゃアねェが、仮にもこの世界最強の親父の船、俺等の誇りである白ひげ海賊団の船に乗っているのだ。
それで、あの弱さはねェだろ?
俺の苛々の根源は確実に其処だ。
わざと嫌味を言っても噛み付く度胸も無ければ、ただビクビクと怯えながら威勢だけの軟弱なチンピラみてェに謝るだけ。
そして恐らくだが、まだこの現象を現実として受け止めずに逃げてやがる。
当事者でも何でもねェ親父が、俺等が受け止めてるってェのに、リンゴは受け止めずに逃げるだけ。
それが、何故か訳も無く俺を苛立たせた。
恐らくそれが顔に出てたんだろう、サッチが若干呆れた様に溜め息を吐いた。
「まァ、マルコが腹立つ気持ちも分かる。だがな…。」
流石、付き合いが長いだけあって、サッチには俺の考えてる事なんてお見通しの様だった。
しかし、語尾に付いた『だがな…。』という台詞に、些か気まずいものを覚える。
「リンゴちゃんは女の子だぜ?俺等みてェな屈強な野郎ならまだしも、彼女はまだ女の子だ。しかも、いきなり自分が分からねェ知らねェ理解出来ねェ、そんなトコ飛ばされちまったんだ。」
彼女が臆病になるのは仕方ねェと、サッチは付け加えた。
それは、分かってるんだ、そんな事は。
なのに、何故かそんな分かりきった事にどうしようもなく腹が立ってしまうのだ。
“こんな器小せェ男だったのかい、俺は。”
人知れず落ち込む俺を見て、サッチが小さく笑ったので。
取り敢えず、俺は無言でサッチのケツを蹴り飛ばしておいた。