TRiP

□フリーター卒業
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Side-M






「…船長さん、どう思います?」


船長室に響いたメアリの声に、空気が揺れた気がした。

いや、確実に揺れた。


その原因は、この部屋の主である親父にあった。





「こいつァ面白ェ…お前ェ、別世界の人間か?」





別世界って言やァ確か、昔の学者が唱えた異次元世界の事か?


『世界は無数に存在するものであり、我々の知る世界とはその一つに過ぎない。』


そんな学説が昔あったらしいが、それを証明出来るものが何も無い為、今じゃ異次元世界なんてのァ伝説染みた夢物語というのが定説だったのだが。

その伝説染みた夢物語が目の前に、ある。




_ドクンッ…




それなりにいい歳になったと言えども、やはり俺は生粋の海賊だ。

海賊とか以前に、冒険やらロマンという代物に好奇心を覚えられなきゃ、まず男とは言えねェってモンだ。


船長室に集まった他の隊長も、何処か興奮した様に親父とリンゴを見つめていた。




今、正に、伝説級の存在が、目の前に…。


「えええぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!!!?????」


…ある、んだよな…?

リンゴの間抜けなまでの叫びに些か不信感が募るが、恐らくは本物だろう。

何故ならば親父の緩く上がった口角が、それを如実に表しているからだ。



「グララララララッッッッ!!やっぱり面白ェ小娘だっ!!来ちまったモンはしょうがねェっ!帰れるまで、この船にいりゃア良い!!」

「そうね、下手に下ろして野垂れ死にするより良いわ。」



親父もやはり生粋の海賊だし、その船に(ナースではあるが)乗っているマリーも流石だ。

少々興奮気味の俺等以上に、この状況を最高に楽しんでいた。


…まァ、リンゴはマリーの発言に何やら怯えてるみてェだが、仕方ねェ。

マリーに関しては隊員に限らず、隊長格ですら背筋に寒いものを覚える。


あァ…そうそう、丁度あんな笑顔だ。



「まぁ、死にたいと言うなら私は止めないわよ?リンゴ。」



…出た、『マリーの微笑み(通称・雪女の微笑)』だ。

ありゃア、何っつーか…御愁傷様だな。


モビーの七不思議に、雪女から微笑まれると全身を寒気が這い回り、体が凍ったかの様に固まってしまうというのがあるが、その通りにリンゴはピシリと固まった。




それは、さて置き。

確か異次元世界説にはまだ続きがあったな。




『我々が見る夢と呼ばれるものは、我々の知り得ない世界を見るものであり、夢を見ている間我々の意識は肉体を離れ、別の世界へと旅をする。しかし、その時我々は意識しか有しておらず肉体が存在しない為にその世界に留まる事が出来ず、肉体も意識無しでは生存出来ない為に終には意識は肉体に呼び寄せられ、結果我々は夢から覚めるのだ。』




この説が正しけりゃア…本来ならば意識だけが次元を超えられる筈が、何故かリンゴは肉体も超えたという事になる。

そんな事が可能なのかと首を傾げたくもなるが、如何せん出来ちまった奴が目の前にいる。



…夢でしか感じれねェ世界、か。

抑え切れない好奇心と共に、取り敢えず世話役を任命されたのを理由にリンゴを部屋へ案内する事にした。



他の隊長等(特にエースとサッチ)が羨ましそうにしてるが、仕方ねェだろ?

これは親父からの、つまり船長命令だ。



何か話が聞けんじゃねェかと、年甲斐も無くワクワクしながら案内をしたのだが。

案内をしていて、俺は彼女の性質をまざまざと実感した。





このリンゴという女は、恐ろしく臆病でチキンな逃避癖のある奴で。

…ついでに言えば、そういう類の輩は俺の嫌いな部類に入る、という事を。
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