TRiP
□美女軍団
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Side-M
気を失ったモリノミヤリンゴという名の女を隊員が肩に担ぎ上げ、メアリ以外のナース軍団と共に医務室に行くのを見送ってから、本題に入る。
「親父、乗せるってのはどういう事だよい?」
「どうもこうもねェ。マルコ、そのままの意味だ。」
「海賊って聞いて気ィ失う女だぞい?海賊船乗れんのかい…。」
呆れながら言うも、船長である親父の決定に反論するつもりは無い。
エースの乗船の時も、自分の首狙う男を乗せようとする親父に頭を抱えそうになったモンだが。
エースの時は、戦いの時に見せた後ろにいる大切な存在を命を懸けてでも守ろうとする姿に好感を持てたし、何よりも瞳に闇を宿す様な訳有りの奴をほっとく様な馬鹿はこの船にはいない。
だが、今回は違う。
まァ、訳有りっちゃア訳有りだろうが…訳有りってよりも『曰く有り』な気がする。
大丈夫か?と本気で頭を抱えたくなると、親父と対面していた赤髪が此方を見ながら、愉快そうに笑った。
「俺の船に嬢ちゃんを連れて行っても良いが…まァ、白ひげの船に乗る奴を連れては行けないからなァ…。」
戦争になっちまうとおどけて言う男の笑顔が、恐ろしく腹立たしい。
思わずチッと舌打ちをすると、赤髪はダッハッハッハッと大笑いした後、さっさと自船へ帰る為に小船へと乗って、此方を振り返った。
「嬢ちゃんに宜しくな、マルコ。」
「何で俺なんだよい…。」
「何でって、お前が世話係だろ?」
「はァあっっっ??!!!!」
相変わらず豪快に笑う姿に苛つき、肩から青い炎をチリチリ上げると、怖ェ怖ェ!と大して恐がってもいねェ声を上げる赤髪。
…あの野郎。
心の底から蹴り飛ばしたくなる衝動に駆られると、じゃあなと小船の帆を張った赤髪は、今度は振り向かずに去っていった。
その後ろ姿を睨み付けていると、後ろからグララララッと豪快な笑い声が聞こえ、振り返ると。
後ろでは案の定、親父がさも楽しそうに笑っていた。
何がそんなに楽しいのか、眉を顰めて親父を見やれば、親父はニヤリと笑いながら、赤髪が持ってきた酒をガブリと飲み干した。
「そういう訳だ、マルコ。」
「…?」
何の話だとますます眉を顰めると、親父は更に口角を吊り上げる。
「お前ェがあの小娘の面倒みやがれ。」
「…はい?」
「グララララ…何だ、聞こえなかったか?」
「いや…聞こえた、けどよい…。」
そうぎこちなく返せば、親父は大口開けて盛大に笑った。
「お前ェが拾ったモンだ!てめェで世話しやがれ!グララララララッッ!!」
「…マジ、かよい。」
実際拾ったのは赤髪だと言いてェとこだが、当の本人がいねェ上に、白ひげの船に乗るからとリンゴの世話を寧ろ放棄している。
文句の一つも言えやしねェ現状に、俺は大きく溜め息を吐くと。
医務室に様子を見に行こうとしていたメアリが綺麗な微笑みを湛えながら言い放った。
「マルコ隊長ともあろう紳士が、か弱い女の子を泣かす真似する訳ないわよねぇ…?」
笑顔は女神の如く綺麗そのものだが。
一枚皮を剥げば、其処には悪魔どころか魔王の顔がある事を、俺は長年の経験から知っている。
今日の航海は順風満帆だった筈なんだが。
俺の航海は順風満帆じゃなかったらしい。