TRiP

□災難だらけの厄日
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Side-M





赤髪と乗り込んだ船は、そんな大した強さも無い海賊だった。


まず、世界情勢や情報収集の為に普段から新聞や手配書は隅から隅まで読んでいる俺が、ジョリー・ロジャーを見ても直ぐに『●●海賊団』だと頭に浮かばなかった時点で、大した事のない輩だと言う事は分かっていたが。

それにしても、張り合いの無い相手だった。



…まァ、赤髪と俺相手に張り合える輩はそうそう居ねェか。



「おい、船底に穴開いてないか?」



覇王色の覇気で三分のニの敵を気絶させやがった赤髪が、ふとそんな事を言い出した。


赤髪の覇気に当てられても意識を残し、それでも怯まずに戦おうとした勇敢ながらも、気絶した方がマシであっただろう哀れな残りの三分の一の敵のまたもや半分、つまりは六分の一としか戦えなかった俺は。

無意識に眉間に皺を寄せて『あ゙ァ゙?』とそれに返した。


「てめェが開けたんだろうが。」

「いやァ、一振りしただけなんだがなァ。」


ダッハッハッハッと陽気な声でコイツは笑うが。

そのせいで船が沈んでどうする。


敵船を落とした時は、船の積み荷を奪わなきゃならねェ。

それが海賊の常識みてェなモンだ。

寧ろ、奪った財宝やらが俺達の生活費だ。


沈んじまったら、サルベージでもしなきゃ奪えねェし、出来るならそこまでしたくは無い。



「さっさと宝探しでもするかねい…。」



そう言って、船室へ向かう為に甲板から船内へと降りる…が、明らかに海水がジワジワと床を浸水している。

それを確認した俺は、チッと一つ大きく舌打ちをして。

両腕に青い炎を宿して、そのまま獣化した。


「何時見ても幻想的だな。」


ニンマリ楽しそうに笑う赤髪の頭を嘴で少し強めに突いてから、船内を飛び回った。

後ろから『痛ェな。』と苦笑混じりの声が聞こえたが、聞こえなかったフリをして、次々と扉を開けて(というよりは破壊して)いった。





「…随分稼いでんじゃねェかよい。」


色々扉を開けて見付けた財宝を、ストライカーに乗って運ぶのを手伝いに来てくれたエースに渡していたが。

何億ベリーになるのだろう?という程に金銀財宝が出てくる出てくる。

それに疑問を感じていると。



「マルコ…コレだ。」

「…人身売買かい。」



誰かの名前と値段の書かれたリスト表の様な紙をヒラヒラさせながら赤髪が俺の所までやって来た。


「人攫い稼業してたんだろう。一応、攫われた奴が居ないか探してみよう。」

「…随分紳士じゃねェかい。」

「海賊に攫われた上に、デービー・ジョーンズの監獄行きは可哀想だろ?それに…。」


赤髪はニヤリと笑って、船内を飛ぶ俺を見上げた。




「そっちは下に降りる梯子しか無いぞ?」




俺が攫われた民間人がいねェか探そうとしてた事なんざお見通しだ、と言わんばかりの笑みに些かイラッとしたが。

船が少しずつ沈んでいっている現状を考えると、何かの拍子で一気に船が沈んだ時、能力者でない人間が居る方が安全である事に違いは無い。


それにも多少苛ついて、小さく舌打ちをすると赤髪はダッハッハッと笑った。




「さて、沈む前に終わら「誰かああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!」っっ!?マルコっっ!!!!」

「あァッ!!!!」




階下から響いた女の悲鳴に、俺と赤髪は同時に動き出した。


赤髪は剣で自分の周りに円を描き、そのまま丸く斬り取られた床と共に下に降り。

俺はそれに続いて床に開いた穴へと飛び込んだ。



_ドガシャァァァアアンッッッ!!



階下に飛び込んだと同時に、赤髪が一つの扉を蹴り破っていたのが目に入る。



「嬢ちゃん平気か?」



急いで赤髪の後ろから中を覗き込むと全裸の女が俯せになりながら、顔だけ此方に向けているのが目に入った。



…随分、若いな。



そんな事を思っていたら、赤髪は既にツカツカと彼女へと歩み寄り、後ろ手に嵌められた手錠を見て顔を顰めていた。


「海楼石じゃねェか…今、外してやる。」


そう言って覇気を纏わせた右手で海楼石の手錠を破壊し、自身のマントを外して彼女に掛ける。

その光景にハッと我に返って、獣化を解きながら二人に近付くと。

その女がポカンと間抜けた顔で此方を見ているのに気付いた。


「随分な間抜け面だねい。」

「マルコ、身ぐるみ剥がされた上に、こんな状況だ。仕方無いだろ。」

「…まァ、赤髪の言う通り…災難としか言えねェな。」


例えそうだとしても、その女の顔は余りにも間抜けで力が抜けていく気がした。

まァ、実際足首まで海水が来ちまってるから、本当に力は抜けているのだが。



「取り敢えず、白ひげの親父さんとこに連れてくぞ?」

「仕方ねェ、早くずらかるよい。さっきから海水で力出ねェんだい。」

「ハハッ、能力者は大変だな。」

「…うるせェよい。」



そんなやり取りをしながら、赤髪は女をマントに包んで横抱きして、甲板へと足を進めた…と思いきや、ハタと足を止めた。

それを訝しげに見やると、ポツリと聞こえた赤髪の声。



「それにしても…貧相な体してんなァ。」



…まァ、失礼だが否定出来ねェ。

攫った奴にちゃんと飯与えて無かったんだろうと思い、『あァ、飯食ってねェんだろい。』と答えたら、突き刺す様な視線を感じて女を見やると。

何やらジロリと睨まれていた。



先程、余り暴れられなかった上に海水で力出ねェ今の俺は、腹の虫の居所がかなり悪いらしい。

普段なら気にも止めないそんな視線に些か苛立ちを感じてしまった俺は。



「…敵なら即沈めるよい。」



いかにも弱そうな女相手に、そう脅しを掛けてしまっていて。

それを聞いた赤髪が、口元をニヤ付かせていた事にも、俺は苛付いてしまった。
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