SeRieS

□君の瞳は春の色
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親の転勤で他県の高校に入学する事になった。

見知らぬ土地での高校の入学式が終わった後、緊張しながら自分のクラスとなる一年四組の教室へと入ると、そこは見事に知らない人が沢山いた。
全員の視線を避けるように身を小さくしながら黒板に貼られている座席表を見に行けば、すぐに『杜ノ都林檎』の名前を見付けた。
嬉しい事に窓側の一番後ろの隅っこの座席である事を確認して、静かにその席へと向かって着席する。



どうやら私の前の席の女子と、その隣の男子とその後ろの男子……つまり、私の隣の男子の三人は知り合いらしく、わいわいと話していて。
囲まれてて少し居辛いなぁ……と窓の外へと視線を向けた。

小学校まで過ごした地元はまだ雪景色だったけど、こっちは地元より暖かいから桜は咲き始めているようだ。
そして、空も地元とは違って太陽が顔を出していて青かった。










君の瞳は春の色










「ホワイティ・ベイ、モビー中学出身です。宜しくお願いします。」


私の前の席の女子はホワイティ・ベイさんというらしい。

一年四組の担任となるシャンクス先生が教室に入ってきて、先生の自己紹介が終わると今度は生徒の自己紹介を……という事で、廊下側の一番前の席から順番に椅子から立っての自己紹介が始まった。
そして今、私の前の席であるホワイティ・ベイさんの簡素な自己紹介が終わった事で、私の自己紹介へとバトンタッチされてしまった。

窓側の一番後ろなんて最高だと思ってたけど、こういう時に一番最後を務める事になるのね……と、生徒の自己紹介が始まってから緊張で手が震えっ放しだ。
その震えを必死に抑えながら椅子から立ち上がる。


「あ、の………ドラム中学、出身、です。……杜ノ都…林檎…です。えっと……宜しく、お願いします……。」


何とか自己紹介が終わって、そそくさと座ると周りがザワザワとし出す。



『ドラム中学って知ってる?』
『ドラム中学って何処?』
『転校生?』
『いやいや、転校じゃねェだろ。』
『じゃあ中学卒業と共に引越しみたいな?』



そんな囁くような声があちこちから聞こえてきて、『親の転勤で東北から来ました』って付け加えれば良かったなんて後悔した。
そんな事言っても後の祭りなんだけど、それでもヒソヒソと自分の話されてる現状に私の顔はどんどん俯いていった。


「煩ェ。何処の中学でも良いだろうよい。」
「おーおー、マルコの言う通りだぜ。林檎ちゃんだっけ?親の転勤か何かでこっち来た感じっしょ?」
「……サッチ、入学早々ナンパとかやめてくれる?チャラいキモいウザい。」
「ちょっ!!ベイ?!!!」


ホワイティ・ベイさんの隣の席であるエドワード・サッチ君が大袈裟に泣き真似した事で教室が笑いに包まれる。
そのお陰でヒソヒソと話していた声は一気に消え失せ、無意識に力が入っていたらしい肩がすっと軽くなった。



そんな私の様子に。

目を三日月のように細めて笑うホワイティ・ベイさん。
笑いながらウインクしてくるエドワード・サッチ君。

そして、私の隣の席では。

片方の眉をひょいと上げて口角を上げるエドワード・マルコ君。



人見知りの田舎者が、都会で友達なんて出来るのかな?と不安でいっぱいだった私に、三方向から同時に三つの手が差し出された。


「私、ホワイティ・ベイ。ベイって呼んで?私も林檎って呼ぶわ。」
「俺サッチってんだ!宜しくな、林檎ちゃん!」
「……マルコだ。宜しく頼むよい、林檎。」


どの手から握手して良いのか分からなくなって戸惑っていると、三つの手が同時に私の頭へと移動して、わしゃわしゃと頭を撫で回された。
朝早く起きて整えた髪の毛がぐちゃぐちゃになっちゃったけど。

そんな事よりも嬉しくて。
本当に泣きそうなくらい、三人の優しさが嬉しくて。



私は笑いながら、小さい声で「宜しくお願いします。」とペコリと頭を下げると。

ベイちゃんが手櫛で髪の毛を整えてくれて。
サッチ君が可愛い可愛いと茶化してきて。
マルコ君がそれをうっとおしそうに諌めていた。



「親睦深めてるとこ悪いが、ホームルーム始めて良いかー?」


シャンクス先生の声とくすくす聞こえる笑い声に、恥ずかしくなって顔が熱くなってしまったけど。
三人の優しい笑い声に、そんな熱はすぐに収まってしまった。
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