SeRieS
□こちら、開発部企画課で御座います。
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白ひげ株式会社の本社、モビーディックコーポレーションの一室。
その一室は高校生からキャリアウーマン、果てにはアラフォー主婦からにも愛されるプチプラコスメを作り出す部屋である。
そして、もう一つ。
そこは私の職場でもある。
『Yoi-Yoi』開発部室内にある企画課室。
更にその中の企画スペース、通称・女子会ルームは私の仕事場だ。
「やっぱり秋冬はテラコッタカラーが鉄板ですよね!ロビンさん!」
「確かにそうね、林檎さん。」
「でも、葡萄色のローズ系とか赤系バーガンディ系も人気あるんですよねぇ。」
「アイシャドウは去年流行った二色が廃盤予定だし、林檎ちゃん二色選んでカラー企画してみたら?」
「えっ!??待って下さい、ベイさん!!廃盤カラーあるんですか?!!」
「あら、有るわよ。知らないの?」
ロビンさんベイさん二人揃って、可哀想な目してこっちを見ないで………っっ!!!!
ちょ、ビビまで憐れむような目してるんだけど!!
待ってビビ、貴方はそんな子じゃなかったよね??!!!
「そうよね、林檎さんには話すなってハルタさんから禁止令出てたんだわ。」
「え?ビビ?ハルタ課長が?それ虐め?」
ハルタ課長が腹黒だってのは知ってたけど、虐めなんて陰険な事をするような人じゃないって信じてたのに!!
ハルタ課長の裏切り(なのかは知らないけど裏切られた気分)に机に伏せってぷるぷる震えていると、ロビンさんとベイさんの呆れたような笑い声が聞こえた。
それに、顔だけ上げて女子会ルームを見回せば、ロビンさんとベイさんは呆れた顔しながら笑ってて、ビビはビビで苦笑していた。
え、何?私がいけないの?
冬に廃盤カラーが出るっていう仕事の話を聞かせて貰ってなかった私が悪いの?
「何してんだよい、林檎。」
私が机で居眠りしてると思ったのか、マルコ部長が女子会ルームに顔を出した。
それに、慌てて起き上がる勢いついでに立ち上がってしまい、椅子まで倒すという失態。
それにはマルコ部長は呆れ、女子会ルームの三人の女性達は吹き出して笑い出す。
は、恥ずかしい………っっ!!!!
「……で、お前ェは何を落ち込んでんだい。」
「え?……あっ!冬にアイシャドウの廃盤カラー出るって本当ですか??!!!」
「ん?あァ。結構前に流行ったメロンカラーとカーキカラーが新商品と交換になる。」
「嘘………っっ!!メロンのナチュラルメイクに使えて便利だったのに……でも、流行り廃りあるし………カーキもモード系に使えて好きなのに……でも、色んなメーカーでもカーキ系は廃盤なってるもんな…………。」
ぶつぶつと冬に無くなるという二種類のアイシャドウの事を独り言で語る。
確かにメロンカラーもカーキカラーも流行ったの結構前だもんな。
アイシャドウは勿論だけど、チークやリップとか色物はトレンドカラーがシーズン毎に変わるから、その度に入れ替えないといけない。
ファンに惜しまれつつも廃盤……なんて今までも沢山あったんだし、仕方ないか。
そう思っていると、マルコ部長は何かを考え込んでいたかと思えば、さっさと女子会ルームから出て行った。
それに首を傾げてロビンさんとベイさんとビビを見れば、三人も首を傾げているもんだから、私が更に首を傾げると。
「ちょっとちょっと!!杜ノ都ちゃんに廃盤の話しないでって言ったでしょっっ!!!!」
ハルタ課長が背中に般若を背負いながら勢い良く女子会ルームに入ってきた。
え、般若背負うレベルで私ハブかれてんの?
社内虐めですか?そうなんですか?
結構本気で泣きそうなんだけど。
そう思ってたらハルタ課長はずかずかと三人の元へ向かって、三人を少し見上げながら(ハルタ課長は私と身長同じくらいだから三人より身長が低い)言い放った。
「マルコが廃盤止めようとか言い出してんだけどっっっ!!!!!!」
「「「……………はぁ、やっぱり。」」」
「え?え?ロビンさん?ベイさん?ビビ?」
ハルタ課長の言葉に三人揃って溜息を吐いて、何が何だか分からないと全員を見回していると、ベイさんが物凄く面倒臭そうに。
「本っっ当にマルコは林檎ちゃん大好きなのね。」
「え?え?え?ベイさん?」
「仕事に私情挟まないで欲しいわ。」
「ロ、ロビンさん………?」
「マルコさんって子供みたいなとこあったのね、吃驚よ。」
「ビビっっ!!????」
何故か女三人から責められてるんだか責められてないんだか分からないけど、あれこれ言われる私…………何で?
何回も(心の中で)言ってるけど、私が悪いのっっ!!!????
「マルコは杜ノ都ちゃんの言葉に左右されやすいんだからっ!!杜ノ都ちゃん自覚持ってくんないと困るっっ!!!!」
……………………は?
何?つまり私が『廃盤カラー使えるから無くなるの悲しい』って言ったから、『廃盤カラーを廃盤にするの止める』とか言い出したの?あのパイナップル。
それを理解した私は一瞬フリーズして、すぐに女子会ルームを出て奥のデスクへとずかずか歩いて行く。
「………ん?林檎、どうしたよい。」
「『どうしたよい』じゃないっっ!!!!廃盤は廃盤!!これ決定事項!!!!」
「お前ェ廃盤なるアイシャドウ気に入ってる色じゃなかったのかい?」
「いや、確かに気に入ってるけど………っ!!」
「ンじゃア、そのまま販売継続で良いだろい。」
あ、駄目だ、この男。
見た目だけじゃなくて、頭の中身までパイナップルになってる。
もしかしたら、果肉果汁たっぷりのパイナップルじゃなくて、果肉たっぷりのバナナかもしれない。
「マルコさん、仕事中は上司と部下の約束っっ!!」
「え?あ……………よい。」
少ししょんぼりしてしまった中年おっさん。
心無しかパイナップルのヘタまで萎んで見える気がする。
いや、いつも通り重力に逆らって天に向かって咲いてるから、私の気の所為なんだけど。
でも、そんなしゅんとするマルコさんが可愛く見えるなんて。
もしかしたら、私も末期なのかもしれない。
「………今日、残業は?」
「っ……定時に仕事終わらせるよい。」
「それじゃあ、ご飯作るから帰り一緒にスーパー行こう。」
「あァ。」
満面の笑みを浮かべるマルコさんは、すぐに椅子から立ち上がって企画課室を出て行った。
多分、専務室に向かったんだろう。
何だかんだでYoi-Yoiの開発部部長よりも白ひげ株式会社専務の仕事の方が大変だもんね。
よし、仕事で疲れるマルコさんの為にも、晩ご飯頑張って作らなきゃっっ!!!!
「一人で盛り上がってるとこ悪いんだけどさ、結局廃盤カラーどうなったの?杜ノ都ちゃん。」
「え……はひぃぃぃいいいっっっっ!!!!!責任持ってワタクシが廃盤にするよう説得致しますぅぅぅっっっ!!!!!」
「そうしてくれると助かるな。」
ニコニコと笑ってるけど、ハルタ課長の背後にどす黒いオーラが見えるのは私だけじゃない筈だ。
だって、ベイさんもロビンさんもビビまでハルタ課長から目を背けてるものっっ!!!!
怖いっ!!ハルタ課長怖いですっっ!!!!
「………ま、うちの長男坊が毎日幸せそうだし?このくらいにしといてあげるよ。」
ニンマリと愉しげに笑うハルタ課長に「ほら、さっさと女子会ルーム戻るっ!」と注意されて、すごすごと女子会ルームへと戻れば、三人から生温い目を向けられた。
「「「ラブラブね。」」」
見事に三人の綺麗な声が素敵なハーモニーを奏でたのだった。
お陰様でラブラブです社内でも有名な
ビスタ部長とビビに並ぶ
名物カップルは
私とマルコ部長ですTo be continue.