SeRieS

□こちら、白ひげ株式会社で御座います。
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Side-林檎




リゾート業をメインにあらゆる業界にその名を轟かせる世界的にも有名な大手企業である白ひげ株式会社。

その本社のモビーディックコーポレーションに採用されたのは、恐らく人生最初で最後の奇跡だったと思う。

目の前の真っ白な高層ビルを見てはしみじみと噛み締めて一ヶ月、未だにこのホワイト企業に勤められる事を神に感謝している。



新入社員な上に平社員の私なんかは残業など殆ど無く、ほぼ毎日定時で帰れるわ休日出勤も無いわ、更には福利厚生しっかりしてて、有給も長期休暇もボーナスもしっかりしている。

普通なら一流大学でも採用されないらしい一流も一流である極上企業に、二流どころか三流大学の私が何故採用されたのか…マジで疑問だ。



いや、私の化粧好きが功を奏したんだけどね?

一流大学の女の(全員がそうだとは言わないが)如何にもガリ勉ですな見た目よりも、合コンやらサークルやらでそれなりに大学生活を遊んで過ごせる三流大学のお洒落好きな女の方が人材として求められていたのだろう。

実際に三流大学に通ってた私は、期待を裏切らず服やらメイクやらと兎に角お洒落大好き女だった。

お洒落は大好きだけど、そこはちゃんとバイト代とか生活費やり繰りして、古着やらプチプラコスメやらで如何に安っぽく見せないかを研究してきた学生時代の私を切実に褒めたい。



そんな私が採用されたのは白ひげ株式会社が手掛ける化粧品ブランドの中でも、プチプラで有名なコスメブランド『Yoi-Yoi』の開発部の企画課である。

ついでに言えば、Yoi-Yoiは私の愛用も愛用の長年お世話になり続けてるプチプラコスメブランドである。


そのYoi-Yoiに携われるのは勿論だが、仕事自体も物凄く楽しくて最高だった。


最新の流行りの色や質感を有名ブランドのファッションショーとか雑誌でチェックして、こういうの作ってみませんか?この色可愛いー!と女子会みたいにワイワイして、ついでに言えば会社の経費で常に用意されているお茶やら珈琲やらお菓子やらを摘むという。

何だココは、天国か。

そんな世界で一番最高な職場だったのだが、たった一つだけ不満がある。



開発部の部長が、やたらと厳しいという事だ。


「おい、杜ノ都。この企画書今日中に出しとけよい。」
「…はい、マルコ部長。」


この和気藹々とする開発部で、ただ一人だけ憮然とした無表情と憮然とした不機嫌そうな声と憮然とした無愛想な態度の男。


マルコ部長。


何でこんなそこそこ年取ってるオッサンが花形とも呼ばれる開発部にいて、尚且つ企画課に机を持っているのか。

誰か切実に教えて欲しい。









この会社は服装自由でそれこそ(お洒落大好きな私は絶対にしないししたくもないが)上下ジャージ着たとしても何も言われないのに、このオッサンは開発部で唯一スーツというビジネス仕様の格好。

みんなオフィスカジュアル所か本当にただの私服だというのに、オッサンは毎日ビシッとスーツを着ていれば、勿論ネクタイもビシッと綺麗に結んでいる。

しかも、掛けてる眼鏡は所謂インテリ眼鏡の細めの銀縁眼鏡で、履いてる靴もきっとかなり高い物だと分かる革靴。

それなのに、何故か髪型は頭頂部だけを残して全て剃っている上に金髪ときた。

初めてマルコ部長を見た時はパイナップルにしか見えなかった。





しかし、少し面長で怠そうに半目気味な両目と分厚い唇に新入女子社員の目はハートになり、新入社員歓迎会の飲み会で上着を脱いだマルコ部長の逞しい胸板や二の腕に新入女子社員のハートは射抜かれた。

いや、確かに着痩せするタイプとか身長高くて手足長いモデル体型とか、女子の弱いツボを絶妙に突いてくるのは分かる。

だがしかし、私からすればパイナップルはパイナップルだ。



私は出来れば開発課のエース先輩みたいな黒髪で気さくな男性の方が好みだ。

勿論、エース先輩も真面目で真っ直ぐな性格と、人懐っこいのに時折キリッとした表情のギャップ萌えで女子社員から大層モテてるそうだが、マルコ部長はそれ以上に社内外からモテてるらしい。

年上好きでも年下好きでもなく同年代好きの私にはオッサンがモテる理由が分からないし、理解したいとも思わないが。




ノートパソコンから一切目を離さずに書類だけを手渡してきたマルコ部長をチラリと盗み見る。
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