SeRieS
□アクアマリンをアナタに
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昔々ある所に、とても好奇心が強く、とても美しい人魚がいました。
白く透き通る様な柔肌に、スカイブルーの長く波打つ髪。
ふっさりとした睫毛の下の大きな瞳はコバルトブルーで、ふっくらとした桜色の唇。
スタイル抜群なしなやかな肢体と、深紅から橙色のグラデーションが綺麗な尾鰭。
彼女の名前はリンゴ。
アクアマリンをアナタに_魚人島
リンゴはマーメイドカフェで働く年若い人魚だ。
…と言っても、リンゴが真面目に働く事はほとんど無い。
今日も彼女は、サボりが露見しない内に海面に向かって、その美しい尾鰭を揺らしていた。
_チャポンッ
周囲の気配をしっかりと探り、リンゴは誰もいないと分かった後、海面から頭を出した。
「…良いなぁ。」
遠くに見えるのは、フワフワと七色のグラデーションを持つシャボン玉が多く浮かぶ、幻想的なマングローブが群生した場所。
シャボンディ諸島と呼ばれる其処には、シャボンディパークという遊園地が有り、その中でも一際目立つ大きな観覧車は、魚人・人魚にとって憧れの象徴で。
例に洩れず、リンゴも観覧車に乗る事を夢見る一人だ。
リンゴは誘われる様にして、少しずつ警戒しながらシャボンディ諸島へと近付いて行くと、視界の端に一つの海賊船を捉えた。
「…逃げなきゃ。」
人間は自分達を虐げる、恐ろしい存在。
リンゴは急いで海中へと潜った、が。
好奇心の強い彼女は、海中からなら近付いても大丈夫なのでは?と、つい出来心で海賊船へと向かって泳いでしまったのだ。
_それが、全ての始まりだった
海中から見る海面は、キラキラと太陽を反射していて。
でも、その光の強さ故に、リンゴの見たいと願う海面の先にある世界は歪んでいて見えない。
“直ぐ逃げ出せば良いんだわ。”
人魚は世界一の遊泳速度を持つ。
簡単に捕まりはしない、とリンゴは海賊船の直ぐ横から静かに頭を出して、大きな船を見上げた、其処には。
船縁に肘を付きながら何処か遠くを見つめる一人の男がいた。
長くウェーブのかかった金髪に、ギラリと輝く金色の瞳。
面長な顔は冷静さを湛え、大柄な体躯は屈強な逞しさを彼女に感じさせた。
「お前ェ、何してやがる。さっさと逃げねェか。」
その声に我に返って、その男を見ると、彼は顔をそのままに視線だけリンゴに向けていた。
その鋭さにリンゴは体をビクリと震わせたが、直ぐにはて?と首を傾げる。
そんな彼女の姿に、男も訝しげに眉をひそめた。
「逃げろって、貴方は私を捕まえないのですか?」
「お前ェなァ…。」
呆れた様に彼は盛大に溜め息を付いたと思いきや、急にリンゴから視線を外した。
その瞬間、男の向こう側、つまり船上から声がした。
「おーい、ニューゲートッ!上陸準備だァ。」
「あァ。」
チラリとリンゴを一瞥し、顎で逃げろと合図をした男、ニューゲートは声のする方へと姿を消したのだった。
「…ニュー、ゲート。」
リンゴは小さく呟いた後、チャプンと海中へと潜っていった。