SeRieS

□本日の天気は。
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RAINY DAY







…嫌な時期だよい。


窓の外を見て、溜め息が出る。

じめじめとした湿気に頭の中までカビてきちまいそうだ、と。


「…買い物行きたくねェな。」


今朝、朝食を作る時に冷蔵庫に酒が無いのに気付き、今日は酒屋へ行こうと思っていたのだが、昼過ぎから生憎の雨。

車で行ってもいいのだが、酒屋の傍には駐車場は無いし、しかもそんな遠くは無い。

歩いて十分ってとこだ。


「…そろそろ行くかねい。」


気怠さに重くなった腰を上げて、財布をジーンズのポケットに突っ込んで、ジャラリと鍵を掴んだ。


流石に雨の中、愛用のグラディエーターサンダルは履けない為、黒革のミリタリーブーツを突っ掛けて、友人のイゾウから貰った藍色の唐傘を持ってエレベーターへと向かった。






休日の土曜日とはいえ、こんな雨だと誰も出掛けないのか、外はしんと静まり、ポツポツと雨音しかしない。

梅雨独特の湿っぽさは嫌いだが、この雫の音が響く静けさは、何気に好きだ。



そう思いながら、酒場へ向かって目当ての酒を多めに買うと、酒場の前で雨宿りしてる女がいた。



“ん?確か…。”



俺が口を開く前に、女の方が先にこっちに『あっ!』と気付いた様で。


「マルコさん、でしたよね?」

「ん、あァ。同じ階の杜ノ都さんだったかい?」


そう問えば、ふにゃりと笑って『はい。』と返事が返ってきた。


つい最近、偶然エレベーターで一緒になり、軽く世間話をした事がある。

確か…杜ノ都 林檎と名乗っていたな。



そんな事をぼんやりと思っていると、杜ノ都さんの全身が濡れているのに気付いた。


「傘、無いのかい?」

「ふぇ?あ、はい。朝降ってなかったので…。」


恥ずかしそうに頬を赤くしながらはにかむ彼女に、胸がトクンと鳴った。


「…後は帰る、だけかい?」




トクリトクリ。




そんな鼓動を感じながら、杜ノ都さんに問うと、彼女は不思議そうに首を傾けながら頷いた。





「…入ってくかい?」





藍色の唐傘が、バサリと開いた。



彼女は、申し訳なさそうに傘に入るが、お互い何処かぎこちなく、俺は左肩を、杜ノ都さんは右肩を盛大に濡らす事となった。



会話も無く、ただただ無言で家路に着く俺達二人、揃って顔を赤くしていたのに気付いたのは、きっと俺だけじゃない筈。






特に会話らしい会話もないまま、俺達はマンションへと着いてしまった。

しかも、俺の部屋の方がエレベーターから近い為、必然的に俺の玄関のドアの前で杜ノ都さんとは別れなければならない。


少し、というには不十分な寂しさを覚えた俺は、自分の部屋へと帰っていく杜ノ都さんの背中に、ほぼ無意識に声を掛けていた。






良かったら、お茶でも。







数ヶ月後には

彼女の事を『林檎』と呼ぶ事になろうとは

今はまだ

お互い知らなかった







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