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□CLaP 5
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「思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを…か。」
「何だよい、それ。」
「ちb…いや、マママルコさん!?」
「…んな驚いてんじゃねェよい。」
失礼な奴だ、と顔を顰めるとわたわたと慌て出すコイツは、何時になったら俺に慣れてくれるのだろうかと、内心溜め息を吐いた。
エースやサッチには直ぐに慣れた癖に、俺にだけ懐かないのは些か腹が立つ。
“親父に世話任されてんのは、俺だってのによい。”
そう考えると、こんなにも苛つく原因に思い至って、更に俺は眉間に皺を寄せていたらしい。
目の前のコイツは先程まで両足を投げ出した体勢を取っていたのにも関わらず、今現在正座をしている。
「…足崩せよい。」
「いえいえそん「良いから崩せ。」はいいいぃぃぃぃぃぃいいいっっっっ!!!!」
だから恐がり過ぎだ。
恐る恐る足を崩すコイツに腹が立ったが、また恐がらせるのも面倒なので、顔には出さない様に必死に努めた。
…何で俺が女相手に此処まで気ィ遣わにゃァいけねェんだ。
まァ、コイツは今まで俺等みてェな世間からはみ出した嫌われモンと接点なかったみてェだから仕方ねェが…。
“でも、何で俺だけなんだよい…!”
どうやら俺は、年甲斐も無く拗ねているらしい。
…顔には出さねェが。
「んで?それ何だよい。」
「あ、コレ?グレイスさんがワノクニ?の本借してくれた。」
「お前ェ、ワノ国の古典文学分かるのかよい?!」
コイツはガッコウとかいう学問を学ぶ施設で教わったと言うが、ワノ国の古典文学は中々難しい事で有名だ。
…初めて俺は、コイツに軽い尊敬心を抱いた。
「因みに、意味は分かってんのかい?」
「えーと、コレは…貴方の事を思いながら寝れば貴方が現れて、それを夢と分かっていたなら、そのまま目を覚まさなかったのに…みたいな感じですかね?」
「…恋の詩かい。」
俺の苦手分野じゃねェか。
そもそも、何で女ってのァ恋だとか愛だとかに夢見がちなんだか。
いや、男もロマンという夢を見がちだが。
でも、恋愛にそこまで必死に夢を馳せれる女ってのは、幾つになっても理解出来ねェ。
「そこまで夢見てたいモンかねい…。」
「いや、違うから。」
これだから男は…とか言って溜め息を吐かれたんだが。
地味に腹立つな、おい。
「ハンッ!小娘が愛を語るのかい?」
そう意地悪に聞いてみると、目の前の小娘はムッとむくれた。
…それを少し可愛いと感じたのは、絶対に気のせいに違いない。
「例え小娘だろうと、女心を一番知ってるのは女ですー!」
「へェ…じゃァ、男の俺にも分かりやすく解釈してくれよい。」
からかうつもりで言ったのだが、彼女は自信満々と言った風にニンマリと笑った。
「夢と分かってても一緒にいたいくらいに、相手が好きだって事!」
私も、もし此処が夢の世界だったら目覚めたくないかもなー。
オマケにそんな台詞まで付け加えたコイツに、俺は思わず頷いてしまっていた。
もしも君の存在が夢だったら確かに俺も
目覚めたくないと
不意に
そう思ってしまった島から出港した辺りの話です。
上陸時に宿でグレイスと古典文学の話で盛り上がり、船に戻ってからグレイスに和歌集を借りたという感じ。
ワノ国には日本文化は有り、作者の名前が違うだけで同じ文学があると思って下さい。
因みに、この和歌は小野小町の作品です。