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□この願いを君へ
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リンゴがデンワしてから一時間もしねェうちにバイクに乗った赤と緑の服を着た男がピザやらサラダやらを届けに来た。

玄関で会計をするリンゴの後ろでピザを持って何となしに見ていたら、リンゴがベリー紙幣を出していて吃驚………しかけたが、よくよく見たらあれベリーじゃねェな。
あれが前にリンゴが言ってた『エン』って通貨か。

宴会でリンゴがベリー紙幣見て気持ち悪ィ顔して興奮してた事があって全員でドン引きした事があったが………あの時のリンゴの気持ちが少しだけ分かる、気がする。
似たようなものを見付けると、何処か繋がってんじゃねェかって嬉しくなる。

そこに加えて、帰りてェ気持ちも強ェから尚更だ。



…………つまり、あの時のリンゴも、自分の世界に帰りてェ気持ちが強かったのだろうか?

そこまで思って、軽く頭を振る。



決めたじゃねェか、連れて帰るって。

海賊らしく、ミチノクやユキメさんから奪ってでも、リンゴを攫ってくと。

そもそも、連れて帰れなきゃ俺も帰れねェんだ。


「ピザ久し振りに食べる……美味しい……っ!!」
「そういや俺もどっかの島で食べて以来だな。」
「え、それいつ振りになるの?」
「………二年、いや三年くれェか?」
「うん、まさか年単位だとは思わなかったよ。」


そりゃア陸で暮らしてりゃア……何処の島に住んでるかによるだろうが、いつでも食えるからな。
海だとそうもいかねェ、次また訪れるのは何年になるか、下手すりゃ二度と訪れねェ島だって中にはある。


「でも、世界中のグルメ食べれるって海賊ってのも中々良いよね。羨ましい。」


リンゴがモグモグと美味そうにピザを食べながら言った言葉に、少しだけ嬉しくなって。

もし、お前ェも望んでくれたなら…なんて都合の良い事を考えて。



「………だったら、また来りゃア良いじゃねェか。部屋もバーカウンターもそのままだしな。」



少しだけの願いを込めて。
何でもない風を装って。

期待なんて顔にも出さずに、口にしてみる。



「………それも有り、かもね。」



その一言に、俺がどれだけ内心喜んだか。

お前ェは分からねェんだろうな。

だって、俺が思わず掴んじまったリンゴの腕をお前ェは不思議そうに見て首を傾げてんだから。


「なァ、リンゴ。」
「え、あ、はい。」
「もしも、もしも、だ。」
「……うん。」


喉が酷く乾く。
飲みかけだったビールの缶を一気に煽って、カラカラの喉を潤してから、真っ直ぐにリンゴを見詰めると、リンゴはピシッと背筋を伸ばした。



「もしも、俺が………一緒に帰ろうって言ったら………どうする?」
「………え…………?」
「向こうの、俺の世界に……お前ェも………リンゴも連れて行きてェんだよい。」



ついさっきビールを飲み干したというのに、もう喉の渇きを覚える。

リンゴの腕を掴んでない腕は微かに震えてるが、掴んだ腕は震えてねェだろうか?
リンゴに震えが伝わってねェだろうか?



この緊張感と恐怖感は、何と言えば良いんだろう?

言葉で表せねェような感覚に、背中に汗がつぅっと伝ったのが分かるし、少し眉間に皺が寄ってるのも分かっている。

恐らく、俺の目は怯えを孕んでいるだろう事も、分かる。



答えを聞きてェ。
答えを聞きたくねェ。

リンゴの本音を知りてェ。
リンゴの本音を知りたくねェ。



相反する思い。
それはまるで、どっちにも傾かない天秤のようで。

どっちか片方に傾いて欲しいのに、どんなに揺らしても釣り合ってしまうもどかしさ。
無理矢理傾けさせようとしても、どちらを傾ければ良いのか決め切れない葛藤。



それに、俺の心臓は痛ェくらいに強く脈打つ。

そもそも、連れて帰れなきゃ俺も帰れねェんだ。
無理矢理でも連れて帰るつもりでは、勿論いる。

だが、初めっからリンゴの気持ちを無視なんて出来ねェ程、俺は本気でリンゴに惚れ込んじまってるらしい。

……天下の白ひげ海賊団の一番隊隊長ともあろう男が、一人の女に縋り付いちまうなんて。
情けねェとは思うが、それでもリンゴの腕を掴む手に力を込めちまうのは止められなかった。


「……なァ、リンゴ。」
「あ…………えっと…………。」


戸惑うように視線を下に向けて泳がすリンゴに、胸がじくじくと痛んだが。
いつかは言わなきゃならねェんだ。

そして、俺は必ずコイツを、この世界から奪って攫わなきゃならねェんだ。





「俺と一緒に来いよい、リンゴ。」





リンゴの目が少し潤んで、少し揺れたのを。
俺は、見逃さなかった。



腕を自分の方へと引っ張って。
リンゴの唇を奪って。
角度を変えて何度も口付けて。

最後に、もう一度。
大きなリップ音を立てたキスを。



そうして、リンゴの涙の溜まった揺れ動く瞳を真っ直ぐ見詰めれば。



口を真一文字に結びながら眉尻を下げ。
堪え切れずにリンゴの頬を一筋、流れてしまった雫に。



心臓を握り潰されたように痛んだ胸を見て見ぬ振りする為にも。

思い切りリンゴに深ェキスする事しか、俺には出来なかった。
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