ReVeRSe

□母の企み、父知らず
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この世界にやって来て四日目。

未だ帰れる気配はねェ。

当たり前だ、俺の願望が叶ってねェんだ。
帰れる訳がねェ。

だが、俺は親父の元へ家族の元へ、一秒でも早く帰りてェ。

そして、叶うなら。



俺は『リンゴと一緒に』帰りてェと望んでる。










目が覚めてから、まず布団を畳んで服を着替える。
客間から洗面所へと行って顔を洗い、居間へと向かえば朝飯を作ってるユキメさんにミチノクとリンゴを起こして欲しいと頼まれる。
まずミチノクを起こしに行き、その後にリンゴを起こす。

そして、リンゴと一緒に居間のテーブルへと着いて四人で談笑しながらの朝飯だ。

朝飯が終わればリンゴとユキメさんが洗い物をして、俺はミチノクと一緒にミチノクの書斎へと向かう。
そして、向こうの世界の話をミチノクに聞かせて、ミチノクからこの世界の話を聞く。





そこまでは昨日までと一緒だった。


「………………で、二人は何処行ったんだい?」
「久々にデートしてくるとか言ってました、はい。」
「それは構わねェが、これは何なんだい?」
「お母さんに『頑張れ』と謎の励ましを頂きました、はい。」
「………………ミチノクは何か言ってなかったかよい?」
「お母さんとのデートに浮かれて何も知らない様子でした、はい。」


ミチノクが見当たらねェから、本でも読ませて貰おうとリンゴの部屋を訪ねてみれば。

リンゴは部屋のど真ん中で呆然と突っ立っていた。
不思議に思って声を掛けてみれば、こっちが吃驚するくれェに肩を大きく跳ねさせて、ぎこちなく俺の方へと振り向いて目の前を震える腕で指差していた。

その指先を追えば…………。


「……………まるで連れ込み宿のベッ「ハッキリ言わないでぇぇぇぇぇぇぇええええええっっっっっっっ!!!!!」………いや、まァ、よい。」


リンゴの部屋に一人用にしちゃア随分とデカ過ぎるベッドに、どぎついピンクのテカテカしたサテン生地みてェな布団、極め付けにベッドサイドには赤いベッドランプに………どっからどう見ても避妊具にしか思えねェのが箱で置いてある。
そのベッドを前にリンゴは口元をヒクヒクさせ、その後ろでは俺も口元をヒクヒクさせている。


「…………流石に箱はねェだろい。」
「ツッコミ入れるのそっちなのっっ???????!!!!!」
「ヤるのはユキメさん公認なんだろい?」
「いや、そうだけども………っっ!!!!いや、そうじゃなくてっっっ!!!!!!」


ヒクヒクさせていた口元をニヤリと歪ませれば、分かりやすく慌てるリンゴに思わず吹き出しちまった。

それにポカンと口を開けて俺を見上げてくるリンゴの頭をポンポンと軽く叩いて。
そのまま、サラリと髪を梳くようにして撫でると、指通りの良い感覚が手に残った。


「安心しろい。相手の同意無しに抱く程、落ちぶれちゃアいねェよい。」
「え、あ、あの、あ、はい、その、はい。」
「くっくっくっ………焦り過ぎだろい。」


少し残念な気もしなくもねェが、無理矢理抱くのは主義じゃねェ。
落として抱くのが俺の主義だ。

しかも、面倒な事に、今すぐにでもリンゴを落としてやるんだという気持ちが薄まってるときた。



恐らくは、リンゴとミチノクとユキメさんの『家族』の姿を目の当たりにしちまったからか。

コイツを落として、奪い尽くすくれェに抱いて、俺の女にして自分の世界へと攫ってく。
それはきっと簡単な事かもしれねェが、同時に俺の親友の『家族』をバラバラにさせる事へと繋がる。



早く自分の世界に帰りてェのは勿論だ。

だが、その為だけに大切な親友を、その親友の大切な家族を。
そして、生まれて初めて恋愛感情なんてモンを抱いた大切な女を悲しませちまうなんて。

そこまで俺は海賊らしく非情にはなれねェらしい。
………まァ、俺だけじゃなく白ひげ海賊団にンな野郎は一人もいねェが。





本音を言やァ、リンゴを抱きてェとは勿論思う。

前回の上陸じゃア陸の女には目も暮れずに『もし此処にリンゴがいたらあの店連れてってやりてェな』とか、そんな事ばかり思いを馳せていた。

………早ェ話が多少なり欲求不満でもある訳だ。



だからと言って、欲望のままにリンゴを、抱こうとは思わねェ。



何故だろう?

思いのままに抱くよりも、こうしてリンゴの頭を撫でていたいと思うのは。



そして、許されるならば。


「…………キスくれェはさせて貰えると嬉しいんだがねい。」


その唇に口付けたい。



俺らしくもなく素直に伝えれば、リンゴは顔を一瞬で真っ赤にさせて、口をパクパクとさせる。

それに喉奥でクツリと一つ笑って「……冗談だよい」と冗談でも何でもねェのに強がって。
サラリとリンゴの頭を撫でた。



このサラサラな髪の感触を味わえるだけで、良いじゃねェか。

これ以上は望まねェ。

指と指の間を抜けて行く、真っ黒の綺麗な髪の感触だけで、こんなにも幸福感を覚えちまうんだ。





そう思って、いたのに。



あろう事かリンゴは、俺のシャツの裾を握って。

恥ずかしそうに潤んだ瞳を静かに閉じた。





「…………目ェ開けねェと、このままキスするぞい。」





一応、断りを入れて。

少しずつ、少しずつ、リンゴの顔へと近付いて。



唇まで、あと数センチ。

一瞬だけ、動きを止めて様子を伺う。



顔はトマトみてェに真っ赤で、耳まで熟し切ったように赤々としている。

鼻先だけをくっ付ければ、少しだけ震える睫毛と下瞼に落ちる睫毛の長い影。



………………あァ、もう駄目だ。



一瞬で。
一瞬で、距離をゼロに。



触れるだけのキスを一つ。

すぐに唇を離したけれど。



もう、無理だった。



腕をリンゴの腰へと回して、角度を変えながら、何度も何度も啄むようにキスをする。
舌を入れるなんて深ェキスじゃなく、ただ何度も軽く触れ合わせるだけのバードキス。


「……ん、ぅ…………。」


合間に少しだけ漏れるリンゴの吐息に、俺の熱がじわじわと上がっていくのを感じた。

リンゴの細腰を抱く腕にも力が入り、触れ合うだけだったキスも唇を互いの唇で挟み合うキスへと変わる。





「…………もう、我慢、しねェからな。」





そう一言告げれば、また睫毛を震わせて。

コクリと小さく頷いたリンゴに。



俺は思わず、リンゴの唇へと噛み付いた。
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