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□帰り道に必要なモノ
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『クルマ』ってェのはどういうモノなのか?という俺の一言で、晩飯後にユキメさんの提案(という名の命令)で、リンゴがドライブに連れて行ってくれる事となった。



星でも見ようかと山の方にクルマを走らせてくれたんだが、こっちの星は随分光が弱ェなと思う。
どうやらリンゴの世界の都会では夜も人工の光で空が明るいらしく、此処は田舎の方だからまだ星が見えやすい方らしい。

それでもモビーディック号から見る星の方が遥かに明るく感じた。


「海だから星の光邪魔するもの周りに無いもんね。」
「まァ船明るくしちまうと敵に居場所教えるようなモンだからよい。」
「あ、そっか。」


納得したらしいリンゴは「あっちは大変だねぇ…」なんて呑気な事を言ってる。

よくよく思い出せば、リンゴが夜に甲板に出た時は宴やら晩飯後の宴会の時くれェだったから、普段の夜の甲板の暗さを知らねえんだなと分かった。
本来はマストで不寝番する奴だけが、梯子から滑り落ちねェよう足元にランプを置いとくが、ランプを点ける時なんてのは夜の梯子の昇り降りと、子船と連絡取る時に点滅させる時くれェなモンだ。
俺とエースなんかは能力の関係でランプすら持たねェし。

………もし、もしも、またリンゴが向こうの世界に来る事があったら。
コイツには絶対ェランプ持たせねェとな、と思って自嘲した。



此処がリンゴの『在るべき場所』だってェのに、『在らざるべき場所』に来て欲しいだなんて。

こんなのはリンゴの気持ちは勿論、家族であるミチノクやユキメさん、リンゴの友人の気持ちまでも無視した俺の独り善がりな願望でしかねェ。










俺がこの世界に来た初日、ミチノクに自分の世界への戻り方を尋ねた時を思い返す。


「大丈夫だよ、マルコ。『在るべき者は在るべき場所へ』必ず帰る。これが自然の摂理だ。」
「……保証なんざねェだろうよい。」
「いや、そんな事は無い。簡単に言ってしまえば、異世界ってのは夢の世界だ。本来は意識だけが飛び越える。」
「あァ、そんな説があったな。」
「あ、知ってるんだ。なら話は早いね。僕もマルコも林檎も異世界に飛んだ理由は、強い願望だ。」
「………強ェ、願望?」
「あぁ、願望は強ければ強い程に夢となる。その夢の通り道を通って異世界への扉を開くんだ。僕は一年も向こうにいたからかな?本来は目覚めると忘れるらしいけど、僕は夢の通り道を覚えてる。」
「夢の通り道、かい?」
「そうそう。常識の通用しない不思議な世界で裁判にかけられて、一つのドアの前に案内されてねぇ………目覚めたら、こっちの世界に戻ってたよ。」
「それでお前ェ、急に裏町から姿消したのかい。」
「きっと願望が叶ったからだろうね。」
「へェ………どんな願望持ってたんだよい?」
「僕が子供の頃に住んでたとこはね、本当に田舎の中の田舎で爺さん婆さんばっかりだったから、僕以外に同年代の子供が一人もいなかったんだ。勿論、学校は隣町まで行ってたから学校にも友達がいなくてねぇ………。」
「………寂しかったのかよい。」
「それもあるけど、仲の良い友達が欲しかったんだ………親友ってヤツ。」
「あァ、俺か。」
「そうだね。『親友と沢山話して沢山遊びたい』、それが僕の願望だ。それが叶ったから『在るべき者は在るべき場所へ』帰れたんだ。」
「つまり、俺の願望が叶った時、俺は『在るべき者は在るべき場所へ』戻れるって訳かい。」


そう言えば、ミチノクは満足そうに笑って頷いた。



俺が親父や家族の元へ、愛すべき海へ、白ひげ海賊団へ戻る為には俺の願望を叶える必要がある。

そして、その願望が………欲しくて堪らねェ女を大切な親友から奪う事だ、なんて。

海賊らし過ぎて笑えねェ。



妻を娶った事も無ければ子供も勿論いた事もねェ俺が、命懸けの駆け落ちで愛する女と結ばれた男の愛娘を奪わねェと帰れない。
その男は子供時代の親友。

もしも、その辺のどうでもいい奴の愛娘だったなら、何も考えずに奪えたかもしれねェ。
もしも、俺が海賊じゃなくて堅気だったなら、ミチノクもユキメさんも安心して娘を俺に預けてくれたかもしれねェ。



『もしも』…………か。

そんな言葉を使った事がねェとは言わねェ。
海賊だ、『もしも空に島があったら』とか『もしも海底に島があったら」とか。

『もしも自由な世界があったら』と夢見た事は沢山ある。

だが、いい歳した大人になって現実を直視出来るようになってから『もしも』なんて夢見る事があっただろうか?
親父が体調崩した時に『もしも親父の体調が全快したら』と回復した後の計画を立てるような事はあったが、あくまでも『現実的』に計画を立てる時くらいでしか使ってねェ気がする。

白ひげ海賊団一番隊隊長ともあろう男が、『空想的』に『もしも』と願って夢見るなんて。










「……………コさん………ルコさん………マルコさんっっ!!!!」


リンゴの声にハッと我に返ると、リンゴが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
どうしたの?と小さな声で聞いてくるリンゴに、俺は力無く首を振って何でもねェと言うしか出来なかった。


「……大丈夫だよ。」
「何が、だよい。」
「絶対に帰れるよ、モビーディック号に絶対に帰れるから。」


不安にならないで、と。

あの、へにゃりとした笑顔で、リンゴは笑った。





それを見て。

一気に胸がいっぱいになっちまって。

胸に収まり切らずに喉まで込み上げてきて。



何とか、押し留めた。



………これは、言っちゃいけねェ。

リンゴを困らせるだけだ。
コイツはきっと、何処までも考えちまうから。
家族や友人と俺を両方の事を考えて、きっと自分の事なんて蔑ろにしちまうから。

………言っちゃ、いけねェんだ。



でも、叶うなら。



俺は。



どうしようもなく。



リンゴが、欲しい。
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