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□君は幸せを運ぶ
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いきなりのミチノクの暴言にユキメさんが般若に変わったところで、さっさと逃げ出した俺は。
リンゴとオボンで使うブツダンの飾りを一緒に作る事にした。



紐にワノ国で見掛けたような菓子を括りつけたり、胡瓜と茄子に木の箸を半分に折ったのを足みてェに付けたり。

野菜に四足付けて何の意味があんのかと問えば。


「これは胡瓜が馬、茄子を牛に見立ててるの。」
「理由はあんのかい?」
「うん。黄泉の国から現世へ来る時は馬に乗って早く帰って来てってのと、現世から黄泉の国へ帰る時は沢山の荷物積んでゆっくり帰って行ってねって感じ。」
「へェ………色々あんだねい。」


何だか細けェ風習だなと感じたが、ワノ国も中々に面倒な風習が多かった記憶がある。

まァ、あの島は鎖国してるもんだから、入国すんのにも一苦労する。
三十年弱海賊をやってはいるが、ワノ国に行ったのは数回程度だから、風習なんかはイゾウから聞いた話しか知らねェと言っても良い。




多少なり興味が湧いた俺は、仏さんが祀られてるというブツダンをキョロキョロ見回した。
すると、ブツダンの中ではねェがブツダンの両脇に孔雀みてェな鳥が対にして飾られてるのに気付いた。


「この二匹の鳥もオボンに関係あんのかい?」
「え?……あぁ、それは鳳凰。瑞獣の一つだよ。」
「ホウオウ?ズイジュウ?」
「えっとね………。」


リンゴがその『ホウオウ』と『ズイジュウ』とやらを説明してくれた。






まず『ズイジュウ』というのが、この世の動物の長であり霊獣・聖獣のようなもので姿を現して吉兆を伝える獣らしい。
『ホウオウ』やらワノ国のドラゴンである『リュウ』やら色んな種類がいるという。

その内の『ホウオウ』というのが孔雀に近ェ見た目の五色絢爛の鳥の霊獣なんだとか。
色んな説があるらしいが、リンゴのブツダン脇に飾られてるホウオウは雌雄の番のホウオウらしく、雄のホウと雌のオウの二体の彫り物である。

ミチノクとユキメさんが命懸けの駆け落ちの途中で寄った国で、自分達に吉兆が訪れるよう願いを込めて雌雄の番を夫婦に見立てて買ったという。


「日本とかアジアとかは東洋で、イギリスとかのヨーロッパは西洋って呼ぶんだけど、西洋では鳳凰は東洋版フェニックスって言われてたりするみたい。」
「……フェニックスって、不死鳥かい?」
「そうそう、不死鳥フェニックス。まぁ、鳳凰は火を纏って無いし、寿命迎えると火に飛び込んで、その炎から蘇るってのはないけど。」


以前、モビーディック号でリンゴの手書きの地図を見せて貰った事があったから、何となく地名と位置は覚えている。

『ゆーらしあ大陸』の西側が『よーろっぱ』で東側が『あじあ』。
その『よーろっぱ』が別名『セイヨウ』で、『あじあ』が別名『トウヨウ』か。
そんで東西で不死鳥の呼び方が違うのか……と思えば、西洋では同一視されているってェだけで、実際は東西で全然違うらしい。


「西洋の不死鳥は伝説の動物もしくは悪魔の一種。東洋の鳳凰は全ての動物の長で聖なる動物。不死鳥を伝説の動物と見るなら、鳳凰はその動物達の長になるから鳳凰の方が格上になるのかな?」
「……………。」
「いいいいいいいいや、ああああああの、そそそそそそそその………っっっ!!!!!!」
「……何も言ってねェだろい。」
「目が怖いいいいぃぃぃぃぃぃぃいいいいいっっっっっ!!!!!!!!!!」


失敬な、目付き悪ィのは元からだ。

リンゴが目をふよふよ泳がせて俺と目を合わせねェようにしてるモンだから、両頬を挟んで正面に向かせた。
勿論、頬は両手で押し潰してる。

…………不細工だな、おい。

口を突き出す形になって「うー」やら「むー」やら音を発しているリンゴに一つ笑ってから解放してやると、リンゴはバッと両手を頬に当てて「つ、潰れるかと………っっ!!」なんて大袈裟な事を言ってた。
いくら海賊の俺でも、敵でもねェ女相手にンな事ァしねェって………多分。


「あ、そう言えば……不死鳥が悪魔だって説だと、誰もが聞き惚れる程の美しい歌声で人を惑わして自ら不死鳥の口の中へ飛び込ませるって言われてるんだけど、マルコさん歌上手いの?」
「……下手じゃアねェとは思うが、美しい歌声ってェのは持ってねェよい。」
「え?別に美しさは求めてn「減らず口はコレかねい?」ごめんなさい何でも御座いませんすみません大変失礼しました。」


額に青筋を立てながらリンゴに問えば、何処か懐かしさすら覚える遣り取りに思わずふっと笑ってしまった。
それにリンゴは首を傾げるが、何でもねェと首を左右に軽く振る。









荒方ブツダンの飾り付けも終わって手持ち無沙汰となった俺は、ふとミチノクに言われて初めて知った疑問を口にした。


「なァ、リンゴ。」
「はい?」
「ミチノクから聞いたんだけどよい………この世界の不死鳥は『赤い』火の鳥ってェのは本当かい?」
「あぁ、そうだね。火の鳥だから赤………って、アレ?マルコさんって青い炎で燃えてなかったっけ?」
「燃えてる訳じゃ……いや、まァそれは良い。確かに俺ァ『青い』火の鳥だよい。」


そう、ミチノクに「マルコの世界の不死鳥伝説は青い火の鳥なのか?」と聞かれ、初めて不死鳥の炎の色に興味を持った。

炎の色なんざ今まで何の疑問も抱いちゃアいなかったから、不死鳥ってのは青い炎を纏う伝説の鳥なんだと思っていたが。
よくよく考えりゃア、確かに火の鳥なら『赤い』炎を纏ってる筈だ。
しかし、俺の世界では『不死鳥は死ぬと炎と共に蘇る伝説の鳥』というだけで、炎の色までは語られてねェ。
寧ろ、幻獣なモンだから詳しく語られちゃアいねェってだけでもある。

ただ、そう言った幻獣や伝説なんかはこっちの世界の方が詳しく語られているらしい。
現にさっきの『ホウオウ』の話が良い例だ。

だから、もしかしたら俺が『青い』火の鳥の理由が分かるんじゃねェか?と思ったんだが。


「不死鳥が青い火の鳥ってのは聞いた事ないなぁ……。」
「そうかい。」
「そっちでは色は語られてないんだよね?」
「あァ、そうだよい。」
「それなら、マルコさんだから『青い』火の鳥なんじゃない?」
「…俺、だから………?」


リンゴは一つ頷くと、ポツポツと独り言みてェに話し出した。



赤い火は酸素不足の不完全燃焼の炎、青い火は酸素が充分行き届いている完全燃焼の火。

酸素が足りねェから激しく大きく燃え上がる赤い炎は、不完全燃焼故に温度は千度にも満たない。
酸素が満ちているから静かに燃える青い炎は、完全燃焼故に温度は七千度は軽く超える。

その性質から、青い炎は『集中』で赤い炎は『興奮』を意味するらしい。

青い炎は自分の内側で燃え、平常心で穏やかに見えるが温度は高い。
赤い炎は一見熱そうに見えるが、周りを燃やし尽くそうとするだけで温度は低い。

冷静な見た目で『内に秘めたる熱き情熱』を持つ青い炎。
熱血漢な見た目で『全てを燃やす冷めたる情熱』を持つ赤い炎。


「確かにエース君は笑うと太陽みたいだけど、たまに上の空の時に冷めた目してるよね。」


うんうんと一人で納得しているが、コイツはエースのそんなとこにまで気付いていたのか……と軽く驚いていると。


「あ、でも青い火の鳥なら『青い鳥』だから幸せ運ぶのかぁ……似合わな「おい、てめェ。」すみません本当に申し訳御座いません悪気は全くないんです本当にごめんなさい。」
「っつか、『青い鳥』って何だよい?」
「ん?こっちの世界にある物語で、主人公を幸せへ案内してくれる鳥だよ。それで『青い鳥』は『幸せを運ぶ鳥』って言われてるの。」
「不死鳥を『幸せを運ぶ鳥』、ねェ………。」


思わず自嘲するように鼻で笑ったが。





「そうかな?向こうの世界だと何時死んでも可笑しくないんだし、死なないってだけで充分幸せじゃない?子が親より先に死ぬ事が一番の親不孝って言うし。」

船長さんからすれば、マルコさんは親孝行の『幸せを運ぶ鳥』そのものじゃないかなぁ……。





何処か上の空で呟いたリンゴの言葉に、俺は思わず鼻の奥にツンとした痛みを覚えた。

慌ててリンゴから顔を背けて、目元を隠すように右手で鼻から上を覆うと、リンゴの不思議がる声が聞こえた気がしたが。
きっと、俺の目は水分を含んでいるだろうから、手を退けるなんてとてもじゃねェが、出来そうにもねェ。





なァ、リンゴ。



もしも、もしも不死鳥が。

お前ェが言うように『幸せを運ぶ鳥』になれるってェんなら。





リンゴにも運ぶ事が出来るんだろうか?なんて。

柄にもねェ事を思っちまった俺は。





きっと、どうしようもねェくらい。

それこそ、きっとずっと前から。

俺ァリンゴに。





惚れちまってるんだ。
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