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□好奇心時々不安
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ミチノクの仕事を俺が手伝ってる間、リンゴはどうやらユキメさんとオボンの準備やらをしているらしい。

そもそもオボンってのがよく分からねェという話なんだが、先祖代々の霊がどうたらこうたらとミチノクが掻い摘んで話してくれた。
そんな文化があるのか…と少し感心したが、そういやァ年に一回、イゾウが船で灯篭という灯りを作って灯していたし、数日後にその灯篭を海に流していたのを思い出した。


「あぁ、多分迎え火と送り火代わりだろうね。」
「ムカエビとオクリビ……?」
「お盆で御先祖様が家に来る時に、道に迷わないように家の前で灯りを灯して迎えて、逆にお盆が終わったら見送る為の灯りを灯すんだよ。」
「あァ、『出迎える』火と『見送る』火で迎え火と送り火かい。」
「地域によっては送り火として川に灯篭を流したりもするみたいだが……あれは昔、海の向こうに黄泉の国があると信じられていてね、黄泉の国まで迷わず帰れるように川に灯りを流して海へと流すんだよ。」


つまり、イゾウが海に灯篭を浮かべていたのは、その送り火とやらだったのか。
そう考えると、ミチノクやリンゴのいるニホンという国は、本格的にイゾウとグレイスの故郷のワノ国に近ェ文化なんだなと分かる。

リンゴがモビーディック号に乗ってた時も、グレイスから難しい文学として有名なワノ国の本を借りて普通に読んでたのも頷けるってモンだ。
それをミチノクに話せば「林檎は本当に頭が良くてね……」と、すぐに娘自慢が始まった。

いや、別に娘を可愛がるのは一向に構わねェが……親馬鹿過ぎだと感じるのは俺の気のせいだろうか?







「……え?陸奥は親馬鹿よ?」
「あァ、やっぱりそうなのかい……。」


ユキメさんに買い物の荷物運びを頼まれて。
缶に入ったビールが詰め込まれた箱を何個も持たされ。
更にはイゾウやグレイスが好んで飲んでた清酒の瓶も何本も持たされながらの帰り道。

ふと疑問に思った事を尋ねると、やっぱり思った通りの回答が得られた。



因みにリンゴはクルマという陸を早く移動する乗り物に乗って、遠くの店に買い物に行ってるそうだ。

モビーディック号にいた時に話だけでは聞いてたが。
本当にこの世界は色んなモンが絡繰りの機械で出来ていて、自然の力や動物の習性を利用する俺のいた世界とは何もかもが違ェようだ。

それに好奇心が擽られるのは否定出来ねェが。

近くに海がねェらしいこの辺りは、幾らリンゴやミチノクという馴染みのある人間がいても、正直時折強い不安を駆り立てられる。



親父の空気を震わす笑い声。
騒がしい家族の沢山の笑顔。
波で常に揺れている床。
肌を撫でる潮風。
海から常に鳴り響く潮騒。



此処には、それが一つも存在しねェ。

流石に白ひげ海賊団一番隊隊長として、任務で島に一人で暫く過ごす事だってあったが。

独りじゃなく、一人だった。

姿が見えなくたって、水平線の向こうに大切な家族がいると分かってたから、一人でいる事に寂しさなど覚えた事はねェ。

だが、この世界には友はいても家族はいねェ。
俺の大切な家族も、俺の誇りである親父も、俺の愛する海賊船も、共に在るのが当たり前だった海も。
此処には何一つ存在しねェ。



リンゴも、こんな気分だったんだろうか?

ずっとビクビクと怯える臆病で貧相な女だと思っていたが。
今の俺も不安そうな顔した柄の悪ィ男になるんだろうか。

天下の白ひげの右腕が聞いて呆れる、なんて思ったが。
俺が強く在る事が出来んのは、やっぱり親父在りきなんだと。

それを深く感じさせられた。



「私は林檎の反面教師でね、あの子は私と正反対の子なの。」
「リンゴが?」
「えぇ、そうよ。私は考えるより先に口が出るし身体が動くけど、あの子は考えちゃうのよ。考えて考えて、考え過ぎちゃうの。そうじゃなかった?」


ユキメさんに言われて、そう言やァリンゴは口に出さねェで考えに耽る事が多かったと気付いた。

俺達ァ海賊だから………まァ考えたり悩んだりもするが、基本的には『自由』に生きてる。
うだうだ考えるくれェなら行動しろ、それが基本的な姿だ。
思慮深いらしい俺でさえ言いてェ事は親父相手でもちゃんと言うし、家族相手でさえも遠慮なく口も出れば手や足だって出る。

だが、確かにリンゴは違ェ。
兎に角、内に秘めるタイプの女だったように思う。


「ほら、私と陸奥が一悶着どころか百悶着くらいあったからね。」
「………それは、何があったか聞いた方が良いかい?」
「聞かない事をお勧めするわ。それこそ命懸けの駆け落ちだったからね。」

陸奥なんてよく生きてたと思うわ。


そんな事をあっけらかんと言うユキメさんは、やっぱり何処かメアリに似てる気がする。
それを考えると、リンゴが初日の宴でメアリに対して身の振り方が分かってたのも頷けるってモンだ。

母親がメアリ、か………俺なら考えたくもねェな。
勿論、ンな事は本人の前では絶対ェに言えねェが。





そんなこんなで大量の酒を持ってリンゴの実家へと戻れば。

ミチノクが玄関で仁王立ちしていて。


「雪姫苺さんっっっ!!!!マルコに何もされなかった!!???」


そんな不名誉な事を言われ、その後ろでは父親を哀れな目で見詰めるリンゴがいた。



いくら俺でも、魔王に手は出せねェと知ってるのは。

どうやら此処には俺とリンゴしかいねェようだ。
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