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□事実は小説よりも奇なり
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「俺らの世界を小説にするたァ…悪知恵働くじゃねェかよい、ミチノク。」
「………マルコ程じゃないよ……。」
「……向こう戻ったら俺も書いてみようかねい……。」
「………マルコなら出来るんじゃない……。」
「……………はァ。ミチノク、いつまで落ち込んでんだよい。」
「……うっ…ぐすっ……雪姫苺さんに怒られた……。」
昨夜、結局ぶち壊された雰囲気を取り戻す事が出来る筈もなく。
あのままリンゴは自室へと戻って行った。
そして、今朝の朝食でユキメさんの「…で、林檎。昨日は熱い夜過ごせたの?」という発言に。
俺とリンゴは『ミソシル』というスープをほぼ同時に吹き出し、ミチノクは絶叫し。
ユキメさんはミチノクを怒鳴ってから、何も無かった俺とリンゴに説教をする……という、本当に散々な食卓だった。
それからずっとミチノクの口からは、魂が漏れ出てるのが見えているような気がしてる。
散々面倒臭ェ思いはさせられたが…………一応、ミチノクはガキの頃の親友だ。
それに加えて、世話になってる上に着替えやら日用品なんかもこっちに来た日にミチノクが一通り揃えてもくれた。
受けた恩は返す。
世間のはみ出し者の海賊だからこそ、そういう義理人情は大事にすべきだ。
それは、親父の教えでもある訳だから、勿論俺もその教えを必ず守る心積りはある。
こっちにいる間は、手伝える事は何でも手伝う。
俺に出来る事なら何でも言ってくれ。
そうミチノクに言えば。
俺の世界で体験した事を小説にして生活費を稼いでるというミチノクは、新作のためにも新しいネタ提供をして欲しいと頼まれた。
そのくらいなら、と。
ミチノクが俺の世界にいたのは二十五年以上も前の話だから。
海賊王ロジャーのグランドライン一周の話から処刑の流れや、それと同時に幕を開けた大海賊時代と同時に強化された海軍の海兵共の話をしてやった。
特に三大将のマグマ・氷・光の能力にミチノクは強い興味を引かれたらしい。
流石に大将と直接対峙した事はねェから、白ひげ海賊団が入手している情報の範囲でしか分からねェが。
ミチノクはそこから発想を膨らませて、しかもその発想が正しいように思えるってンだから、流石はワイズマンと呼ばれただけはあるってモンだ。
悪魔の実もうちの海賊団には、親父のグラグラの実やジョズのイシイシの実・ダイヤモンドモデルにエースのメラメラの実の能力者がいると教えれば、ミチノクの目は更に輝く。
「そう言えば……マルコの能力は不死鳥だっけか?」
「あァ、そうだよい。」
「不死鳥かぁ……ねぇ…それって、さ。」
『死なない能力なの?死ねない能力なの?』
ミチノクのその言葉に。
思わず、俺は言葉に詰まってしまった。
これは、死なない能力だ。
どんな攻撃を受けても、死なずに瞬時に再生の炎と共に蘇る。
再生回数に制限はあるらしいが、制限を超える程の強敵と対峙した事もねェから、それを超えたら再生の炎はどうなるかは知らねェ。
だが、超えない限りは蘇り続ける。
だから、これは、死なない能力だ。
そう分かっているのに。
俺の口は小さく開いたままで、音を発する事は無かった。
「………なぁ、マルコ。この日本って国にはね、八百比丘尼伝説っていう不老不死となった女の話があってね。家族も友人も夫も子供も全員が先に死んで行って、それなのに自分はずっと若いままで生き続けててね。とうとう愛する者を見送り過ぎた寂しさに僧侶となって、最後には入定…永遠の瞑想をしたって言われてるんだ。」
「……………。」
「不老不死は老いず死ねずの運命で、置いて逝かれる寂しさと孤独を永遠に味わうんだ。」
「不老不死、ではねェよい。」
「うん、知ってる。不老不死なら今でも子供のままでしょ、マルコ。」
「あァ……そうなる。」
「でも、死ねないんじゃなくて………マルコは、死なないんだよね?」
「……そう、思ってるよい。」
何とかそう答えると、ミチノクは柔らかく笑って「それなら良かった」なんて言うから。
その笑顔がどこかガキの頃のワイズマンと重なって。
更には、どこかリンゴにも似ていて。
不覚にも鼻の奥がツンと痛んだ気がした。
これは、死なない能力だ。
“………マ、ルコ………お、れ……死ぬ、の…か………?”
どんな攻撃も効かねェ、死なない能力。
“……夢………叶、て…ねェ………。”
痛みすら感じる暇もなく再生する、死なない能力。
“…ま、だ…死、たく……ね……マル、コ………。”
“死ぬんじゃねェよいっっ!!!!ウィルっっっ!!!!!!”
“な、んで……ウィルが………何で……俺じゃ、ねェんだ……っっ!!!!”
“何で、俺が生き残っ…………は、ははは………俺は、死ねねェ……ってかい…………。”
見習い時代に背中を預け合った兄弟。
砲撃の奇襲を一緒に受けて死んでった兄弟。
故郷に身篭った恋人がいて、いつか子供に会いたいと笑っていた兄弟。
『まだ死にたくねェ』と泣いていた兄弟。
それに対して俺は。
同じ場所で同じ砲撃を受けたってェのに。
すぐに青い炎に包まれて。
すぐに傷一つ無い身体となって。
目の前で涙を流しながら死んでいく兄弟、ウィルを抱き上げる事しか出来なかった。
その亡骸を火葬した後、親父に了解を得て遺骨をウィルの故郷へと飛んで届けたら。
『どうして…ウィルは、死んだの……?』
『貴方、死なないのに……何でウィルを…守って、くれなかったの……?』
『何で、貴方が、生きてて……ウィルは、死んだの?』
結婚を約束した恋人のウィルの訃報による精神的なショックで、女の腹ン中にいた子供は流れてしまい。
愛する男に続いてウィルの忘れ形見まで失った、ウィルが愛した女は翌日崖から身投げした。
痛みすら感じる暇もなく再生する。
それは本当に一瞬過ぎて。
攻撃を受けた筈なのに傷一つねェ自分の身体ってェのは。
死んで幽霊って奴になっちまったのか、再生能力のお陰で生きているのか。
見習い時代は瞬時に判断が出来なかった。
そしてそれは、当時ガキだった俺にとって、ただの恐怖でしかなかった。
生きてるのか死んでるのか分からなくて。
生死の境界線が余りにも曖昧過ぎて。
死んだと思ったら生きていて。
だったら、生きてると思ったら死んでるんじゃないか、と。
仲間の盾となって守れる凄ェ能力の筈なのに。
その恐怖に駆られて、あの頃は一歩が踏み出せなかった。
だから、俺は。
不死鳥は死なねェんだ、死なねェ能力なんだって必死に言い聞かせて。
戦闘では先陣を切って飛び込んで行くようになった。
大丈夫だ、死なねェ。
俺は、死なねェ。
俺が先陣を切らなければ、またウィルみてェに兄弟を見送らねェといけねェんだ。
……死ねねェ俺は、必ず見送らねェといけねェんだ。
だから、俺は死なねェ。
また死ねねェなんて思いは、絶対ェにしたくはねェから。
俺は、絶対ェに死なねェんだ。