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□俺に落ちろ
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リンゴのお袋さんであるユキメさん(と呼べと強制された)によってミチノクは(無理矢理)黙らされた。

そこから漸くリンゴと再会を喜べる………という流れになる筈もなく、矢継ぎ早にユキメさんからの質問が飛んでくる。
一応、俺の隣に腰掛けてリンゴも補足するかのように説明してくれてんだが。
リンゴが初めてモビーディックに落ちてきた日の宴でのリンゴはこんな気分だったのか……と実感した。





「今更だが……向こうではすまなかったよい……。」
「………は?え?………え?」
「同じ立場になってみて、な。いや、ミチノクが邪魔したってェのもあるが。」
「あ、はい。うちの父が本当にご迷惑を………。」


本気で項垂れるリンゴに苦笑が思わず溢れちまったが、ユキメさんに案内された客間でやァっとリンゴと二人でゆっくり会話出来るんだからと、すぐに苦笑を引っ込めた。
引っ込めたついでに自然と伸びた右手でリンゴの頭をやんわりと撫でていると、リンゴは少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめ………。


「いや、ちょっと待て。」
「………何でだよい。」
「この今にもキスしますって体勢可笑しいよね?!!私間違ってないよね???!!!!」
「今更だろい。」
「いやいやいやいやいや。」


遠慮なく舌打ちすれば、理不尽!!なんて言われたが、コイツが急に消えてから俺がリンゴの名残をどれだけ目で追い、リンゴの残り香をどれだけ求めたか分かってんのか。
………っつっても、実際リンゴがそれを知ってる訳なんざねェんだから、溜息も吐きたくなる。



それでも、この俺がリンゴがいねェってだけで。



コイツがいなくなってからの上陸で女を買わなかった俺を見て、サッチに「どうしたの?お前ェ頭でも打った?風邪か?」と本気で心配された。

書類仕事で気を紛らわせていれば、エースが「……なァ、これ二番隊の報告書。」と守った事もねェ締切よりも数日も前に、気遣わしげな視線と共に報告書を置いていく。

朝はジョズがわざわざ起こしに来ては朝食へと誘われ、昼過ぎにはビスタからティータイムはどうか?と茶に誘われ、夜にはイゾウが秘蔵の清酒を持って酒に誘われる。

時には子船からラクヨウが酒を持参してきたり、クリエルが俺の好きそうな本を持ってきてくれたり。

仕舞いには、ある夜の宴で親父から酒を注がれちまった。



俺がそこまでになったんだ。



抱かせろとまでは言わねェからキスの一つくれェはさせろってのが俺の言い分だ、異論は認めねェ…………と言いたいとこだが、海賊の恋愛観がこの世界で通用しねェってのも分かっちゃアいる。

………分かってはいるが。




「だったらよい、俺ァどうすりゃ良いってんだい?」



リンゴの顎を掬い上げるようにして少しずつ顔を近付けて。
互いの吐息が感じるくれェの距離で止めて。
揺れるリンゴの両目をしっかりと見据えて。



「海賊の恋愛観が通用しねェなら、この世界の恋愛観ってヤツ教わってやる。さっさと教えろい。」



あと少しでリンゴの唇に触れられる。
そんな状態に俺の唇はすぐに乾き始め、思わず舌で舐めて湿らせた。

それにピクンと小さく震えたリンゴの肩を視界の端に捉えて、俺は喉の奥でクツリと音を鳴らして笑う。



「なァ、リンゴ。どうしたら俺はお前ェにキス出来る?」



わざと甘く掠れた声で囁けば、リンゴの喉がコクンと上下した。

あともう少し、もう少し。





この世界の恋愛観に合わせる?

ふざけんな、俺ァ海賊だ。
欲しいモンは自力で奪ってこそ価値があるってェモンだ。
だったら、俺は俺のやり方でリンゴを奪い尽くせば良い。

今まで散々上陸する度に、島一番の手練手管の娼婦も、島一番の清純な生娘も気に入った女は全員落としてきた。
こっちは女の落とし方なんざ幾らでも持ってるんだ。



ホラ、早く、早く。
早く、俺に、落ちて来い。



熱っぽい眼差しで、少しずつ色を宿し始めるリンゴを焦がしていくように。
熱い溢れる吐息で、少しずつ甘さを帯びるリンゴを蕩けさせていくように。







_____ガタン………

「あ、ごめんね。マルコさんも林檎も続けて続けt」

_____スパァンッッッ!!!!!!

「駄目だァァァァァァアアアアアアッッッッ!!!!林檎!!お前をそんな娘に育てた覚え「陸奥、煩い。」ええええぇぇぇぇっっっ!!?????雪姫苺さんっっっっっ!!!!???」
「本当に陸奥は親馬鹿で困るわねぇ……。あ、邪魔したわね。」



ユキメさんが襖の隙間から覗いていたのに気付いたかと思えば、その襖を思い切り開けたミチノクが大声で叫び出し、それをユキメさんが軽く黙らせる。

そして、「林檎ーーーーーーっっっっ!!!!!!!!」と悲痛な叫びを上げるミチノクを引き摺りながら連れて行くユキメさん。
続けれる雰囲気ぶち壊しといて去り際に「さ、気にせずに続けて大丈夫よ。」なんて微笑むユキメさん。






…………だったら、せめて襖は閉めてってくれと思った俺は。
リンゴの顎に掛けていた手を力無く下ろす事しか出来なかった。
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