ReVeRSe

□ほんの少しだけの安心感
1ページ/1ページ





サワサワと柔らかな木々の音がする。

あァ、涼しい風に土と草の匂いが乗って爽やかだなと思い、ふと違和感を覚えた。


俺ァ今、モビーに乗って海にいる筈なのに、何故陸の匂いがするんだと。


浅い眠りから目をパチリと開ければ、目の前には沢山の木々、そして葉と葉の合間からは青い空が目に入った。


「………寝惚けてどっかの島にでも飛んじまったかい?」


もしそうだったとしても、船に乗ってた奴が誰かしら俺を止めるだろう。

それこそ、サッチかビスタ辺りが海にでも落として目覚めさせた筈だ。



…誰にも気付かれずに飛んだのか?とも思ったが、先日航海士と話した次の島への上陸予定はまだまだ先だった記憶があるし、そもそもあの辺りに望遠鏡で見える範囲ではあるが島は一つも無かったと思う。


どんだけ長距離を寝惚けて飛んだのかとも思ったが、別に身体は疲れていない所か寧ろ体力は全開している。

どうなってやがるんだと、取り敢えず立ち上がって周囲を見渡した。



そこは森みてェな場所だが、砂利道があるから人の往来はあるようだ。

前へ伸びる砂利道は下り坂なとこを見れば山ん中だろう。


前と後ろどちらに進むか迷ったが、迷った時は上から見るのが一番だろうと両腕を不死鳥化させて後ろの道を飛んで行く事にした。




















ものの数分で山の頂上に着いたらしい俺は、眼前に広がる景色に驚愕した。


「……何処だよい、此処。」


麓の方は長閑な田園風景だが、そこから先は徐々に家が連なり、更に遠くには大分高度がありそうな縦長の建物が並んでる。

長年色んな島を回ってはきたが、記憶の底まで探してもこんな光景のある島は思い当たらない。

白ひげ海賊団でも訪れた事の無い島なんてあったか?と思ったが、まァファーストハーフや東西南北の四つの海なら知らねェ島もあるか。



………いやいや、まさか、そんな所まで俺は飛んだのか?

いくら寝惚けていたとしても、凪の帯を飛び越えて何処ぞの島に落ちたなんて事は考えられねェ。


仮にそうだったとしても、モビーがいた海域から凪の帯を飛び越える距離なんぞ何週間掛かるんだ。

その間寝続けてたなんて、どう考えても有り得ねェ。

そうなると、出てくる言葉は一つしかねェ。


「……何処だよい、此処。」


その一言に尽きる。






取り敢えず、島民に話でも聞かなきゃ何も分からねェかと山を下ろう振り返ろうとして、誰かやって来る気配に肩から青い炎を出して警戒する。

すると、そいつは驚いた事に俺が知ってる奴だった。


「…あれ?その髪型に青い炎………もしかして……マルコか?」
「………てめェこそ、まさか……ワイズマン………?」
「え?何でいるんだ?此処はマルコのいる世界じゃないだろ?」


目の前で目を丸めている男は、子供時代を共に過ごした通称・ワイズマンだった。

三十年弱も前に急に現れた記憶喪失の男を勝手にワイズマンと名付けて呼んでいたが、ある日突然急に姿を消した大昔の親友の幼い少年の面影を残す男に、俺は驚きを隠せなかった。


しかも、コイツは……。



「まさか、此処は………リンゴの世界、かよい?」
「え?リンゴって…うちの娘の杜ノ宮林檎じゃないよな!まさかな!ハッハッハッ!!」



……残念ながら、そのまさかだ。

リンゴが読書中にからかってやっていた時に父親のニックネームを偶然知ったのだが、そのニックネームがワイズマンだった上に父親は子供の頃三ヶ月程行方不明になった事があったという。

行方知らずだった父親はある日あっさりと見つかり、しかもワイズマンの呼び名はそれ以降から始まったというのだから、それを知った時は驚いたモンだ。


ずっとハッハッハッと笑っていたワイズマンも、無言で口を開けたままの俺を見てどんどん顔が引き攣っていく。



「…え、まさか…うちの娘も………。」
「…あァ、一週間だったかねい。俺が乗ってる海賊船で世話してたよい。」
「海賊船っっっ!!!!!???????おいっっっ!!!!!!うちの娘は無事なのかっっっっ??????!!!!!!!!」
「………取り敢えず、落ち着けよい。ワイズマン。」



普通は逆だろ…と呆れたが、見知っている人に会えただけ良かったというものだろう。

少なからず少しだけ安心した俺の目の前でコイツは、何やら黒い箱みてェなのを震える手で取り出して、何やら指で操作してから耳に付けていた。

それが何か尋ねたいとこだが、如何せんワイズマンは顔中にダラダラと冷や汗を流してるモンだから声も掛けづらい。


黙って彼の様子を見ていると。



「………おいっ!林檎っ!!林檎かっっ!!!!?????お前、無事だったのかっっっ????!!!!!!……は?いやいや………ん?あぁ、休憩中だったのか。それは悪かったな………うん、そうか。仕事頑張れよ!…………おぅ!じゃあな!」
「…それ、電伝虫かい?」



そう声をかけると。

そうだ!無事なのか聞いてなかった!とまた黒い箱を操作しようとしていた。




まァ、何だ。

取り敢えず、此処はリンゴの世界だという事が分かったし。


あのリンゴの忙しねェとこは父親似だったんだなという事だけは分かった。









そして、恐らくだが…娘に電伝虫を即切られたらしい目の前の男が、目の前でガックリと項垂れた。

………項垂れてェのは、こっちなんだがねい。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ