TRiP
□陸の夜は地面が揺れない
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「つ…つか、れ、た…。」
夜、やっとメアリさんとセイラさんから解放された私。
買い物に命懸けになったのは、初めてだったと思う。
取り敢えず、島に滞在する間の着替えと化粧品等以外は船に送って貰った為、今の私の荷物は小さめのキャリーバック一つと、随分身軽になったもんだ。
うん、良かった良かった。
ちなみに今、私は一人で宿屋の部屋にいる。
何故か?
それは、買い物が終わった後にメアリさんとセイラさんにバーに誘われたが、それは丁重に(全力で首を取れるくらいに左右に振って)断らせて貰ったからだ。
『リンゴ、夜道は気を付けなきゃダメよ!分かった?』と、宿の前まで送ってくれた二人は、そのまま夜の街へと消えて行き。
対する私は、その後ろ姿を見送ってから、宿までのたった三歩の夜道に気を付けて、直ぐ様ベッドにダイブ。
…そして、冒頭の台詞が思わず零れたのである。
しかし、夜とはいえ時計の針はまだ7時を過ぎた辺り。
晩ご飯どうしようかなと、窓から煌びやかなネオンの街をボンヤリ眺めていると。
パイナップルが歩いていた。
否、パイナップル・オブ・ザ・ちびマルコが歩いていた。
いや、歩いてるのは別に構わない。
同じ島に上陸してんだから、いて当然だ。
寧ろ、この島を歩くななんて言う程私は鬼畜じゃないし、それ以前に怖過ぎて言える訳が無い。
ただ、一つ。
ツッコんでも宜しいでしょうか?
ちびマルコの左腕を絡め取っている、背中がバックリ開いた真っ赤なスリットドレスを着る美女は。
どちら様でしょうか?
え?あんた恋人いたの?
あの髪型で?あの性格で?あの髪型で?あの髪型で?
…あぁ、三回も言ってしまった。
念の為に、もう一回言おう。
あの髪型で?
そんな事を思っていると。
ちびマルコはスッと立ち止まって。
自分の首筋に充てていた右手を、同じ様に立ち止まった美女の頬に添えて。
接吻かましやがった。
美女がキスしたまま、ちびマルコの首に両腕を回すと。
ちびマルコも美女の腰に両腕を回して、熱い抱擁をし出す。
あれ?道のど真ん中にバカップルがいるぞ?
熱い口付けと抱擁が終わったらしい二人は。
お互いの腰に手を回して、仲良くビルに入って行く。
その入り口から視線を上げると、其処にはピンクと紫のネオンで。
『HOTEL ENDLESS』
ラブホktkrっっっっ!!!!
何?エンドレスって何?
終わんないの?!続いちゃうの?!!
果てしなさ過ぎだろぉぉぉぉぉおおっっっっ!!!!???
「…ってか、彼女さん美人過ぎだって。」
あんなに綺麗なのに、何故パイナップルを相手に選んじゃったの?
もっと良い人いるでしょうよ。
そう思いながら、私の頭の中に沸々と込み上げてくるモノがあった。
「だから…男は嫌いだ。」
今朝の心臓に悪い起床を思い出す。
近付けられた顔に。
真っ直ぐに見つめてくる瞳に。
熱く吐き出される吐息に。
甘く擦れる声に。
悪戯に釣り上がった口元に。
不覚にもときめいて。
ほんの少しだけ期待して。
いつも傷付くのは、こっちだ。
「…最っ低っっ!!!!」
吐き捨てる様に、二人の消えた入り口を睨んだ。
その真っ暗な入り口は。
確かに果てしなく奥まで続いてる様に、私には見えた。