TRiP

□自己紹介は大きな声で
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エース君に連れられてやって来た甲板は、一言で言えばアレだ。



「ぎゃハハハハハッッッッッ!!!!」

「飲め飲めェェェッッッ!!」

「おいっ!その肉は俺んだぞっ!」

「がははははっっ!いいぞォ!やれやれェッ!!」

「酒!酒!!もっと持って来いっ!!」

「ぶわっはっはっはっはっ!!」


…うん、カオスだ。

誰が何やってんのかすら分からない。

それ以前に、何人いるのかすら分からない。


「おっ、エース。ナンパ成功か?」

「違ェよ、迷わねェ様にえすこーとしただけだ。」


何ともまぁ、時代錯誤に陥りそうな立派なリーゼントだ。

昔の不良のシンボルなだけあって、見た目が怖い。

ついでに言えば、左目の横辺りから左頬に掛けて残る傷跡のせいで怖さ五割増しだな、コレ。


しかし、服装が給仕服ちっくな上に、両手に山(というより富士山)みたいに盛られた料理を持っている事から、ただの不良ではなくて、ちゃんとしたコックらしい。


「俺、サッチってんだ。宜しくなリンゴちゃん!」

「あ、はい。杜ノ都林檎です。宜しくお願い致します。」


エース君を見習って、直角の礼をしたら。


「海賊の癖に、んな固くなんなって!」

「いえいえ、そんな訳には…。」

「敬語も要らねェって!」

「んじゃ、そうする。」


敬語不要との許しが出たので、タメ口に変更したら。

サッチさんは、一瞬きょとんとして、大爆笑した。


…手に持ってる料理もリーゼントに合わせて盛大に揺れてるのに、全く溢れないのには軽く尊敬するよ、うん。


「ガッハッハッハッ!…いや、何っつーの?…ククッ、プハハハハハッ!!」


何がツボったのか知らないが、サッチさんが余りにも笑うもんだから。

気付くと私とエース君とサッチさんの周りには人垣が…。



うん、取り敢えず笑い収めてはくれないだろうか。

切実に願う。



「随分と楽しそうだねい。」



来やがった!ちびマルコ!!

ガシッとちびマルコがサッチさんの頭を掴むと、サッチさんはいきなり慌て出した。


「おまっ、マルコてめェ!リーゼント崩れんだろうがっ!」

「ついでに切り取ってやるよい。サッパリして良いんじゃねェかい?」

「サッパリはマルコの頭だけで「そんなにもぎ取って欲しいのかい?」…スミマセンデシタ。」


どうやら、サッチさんはリーゼント命らしい。



そして、ちびマルコに関しては、ヘアースタイルの事に触れてはいけないらしい。

これは絶対に覚えておこう、命に関わりそうだ。


「んで、リンゴ。」

「は、はひっ!」

「…自己紹介は済んだのかい?」


声が裏返りながらも返事をすると、ちびマルコは眉間に皺を寄せながら静かに言った。



「あ、そういや直ぐサッチに絡まれたからしてねェな。」



エース君がそう言うと、ちびマルコはサッチさんのリーゼントをグシャリと握り潰した。

サッチさんの絶叫が辺りに響き渡る。

御愁傷様です、サッチさん。


そして、そこまでしても料理を溢さない貴方の料理人としてのプロ根性、立派過ぎます。



そのまま逃げ出したサッチさんを目で褒め称えて、視線をちびマルコに戻すと。

何故か不機嫌なパイナップル…じゃなくて、ちびマルコ。



「さっさと皆に自己紹介しろよい。」



そう凄まれて。

ぐるりと周りを見ると、外野は静まっていた。



え?凄い自己紹介しにくいんですが。

それでも目で『さっさとしろよい。』と言ってくる貴方は、ドSですか?


あぁ、鬼畜パイナップルですね?

分かります。


「えっと…その、私は…。」

「声小せェよい。」

「ヒッ…。あ、わ、私はっ!」


すぅっと大きく息を吸い込んで。

出せる限りの大声で。




「杜ノ都林檎ですっ!宜しくお願いしますっっ!!」




そう叫ぶ様にして言った。


すると、一拍の静寂の後、全員が手に持つグラスや瓶を掲げて。





「「「「「ようこそ白ひげ海賊団へっっっっ!!!!」」」」」





そう、返された。


ちびマルコに渡されたジョッキを持つと。

周り全員から、グラスをぶつけられて。


『宜しくなっ!』
『乾杯っっ!!』
『お前ェの話聞かせてくれっ!』
『あっちに飯あっから、一緒に食おうぜっ!』


そんな言葉を沢山掛けられて。





不覚にも、私は。

本気で泣きそうになった。



何て暖かい人達なんだろう…。





未だに不機嫌なちびマルコは除くが。
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