TRiP

□私の部屋が出来ました
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「お前ェの部屋は此処だよい。」

「あ、はい。すみません。」

「…元々物置だったから、ちと狭いがねい。」

「あ、大丈夫です。すみません。」

「急いで片付けたからな、色々汚ねェかもしれねェが…。」

「いえ、大丈夫です。すみません。」

「…リンゴっつったかい?」

「はい、そうです。すみません。」

「いちいち謝ってんじゃねェよい…。」

「はい。すみません。」

「……。」


頭だけファンキーにパインだが、海賊相手怒らせたら殺されますから。

普通謝っちゃいますから。

映画みたいに、甲板から薄い板を海へ伸ばして、目隠しされて、進めとか言われちゃいますから。

下手すれば銃と銃弾一発手土産に島流しですから。

『島の総督に任命する。』とか言われて、どっかの小さい無人島置いてかれますから。

ジャック・スパロウが、そうでしたから。



いや、ジャックと私を一緒にしちゃ、ジャックに失礼だな。





「聞いてんのかい?リンゴ。」

「はヒィィィイイッッッッ!!!!」

「…チッ。」



うわ、舌打ちされた。

面倒臭いって顔だよ、コレ絶対。



まぁ、確かに第一発見者ってだけで世話役を船長さんから命令されてたが。

一応、実際の第一発見者はシャンクスさんだが、彼は違う海賊船の船長さんだ。

それで、第二発見者のパイン野郎もとい、マルコさんが世話役にさせられたのである。





でも、このパインの兄ちゃんさ…。





「…女の世話役なんざ、面倒臭ェよい。」





独り言ですか?それ。

バッチリ聞こえる声量でしたが、独り言ですか?それ。



チクチクと精神的攻撃を多分(いや、確実に)わざとしてくるんですが、このちびマルコ。

いや、背は余裕に2メートル近いんだろうが、他の皆さんが桁違いに大きいから、このオッサンは小柄にしか見えない。


…うん、パイン野郎のあだ名は『ちびマルコ』決定だな。



「なァんか腹立つんだが、気のせいかねい…?」

「気のせいです本当に気のせいですよすみません絶対に気のせいです。」

「…チッ。」



額に青筋立てられた上に、また舌打ちされました。


怖いです、はい。

睨まないで下さい、はい。

すみません、はい。




取り敢えず、私はこのちびマルコに部屋の事を簡単に説明された。

部屋はとてもシンプルで、家具は机と空の本棚に、恐らく服をしまうための木箱とベッドのみ。

しかもベッドは、大きめな木箱に布団と枕を入れたのを天井からぶら下げている、ちょっとしたハンモックみたいなものだ。


うん、ちょっと冒険家気分を味わえる感じだな、コレ。



ちびマルコが言うには、近々島に上陸するらしい。

その時に必要なものを買えとだけ言って、パインなちびマルコは部屋を出て行ってしまった。




…愛想無い男だ。


まぁ、仕方ない。


オッサンだもんな。

パインだもんな。

ちびマルコだもんな。



そう思いながら、さてどうしたものか…と私は頭を捻らせた。





…うん。

取り敢えず、休日の昼寝の続きをしよう。



私は、ベッドから垂れ下がっている縄梯子を掴んで登ろうとした。


「うわっと…揺れる…つか、落ちる落ちるっ!ぅあ、危なかっ…たぁ…。」


思っていたよりも、天井から吊されたベッドから吊された縄梯子は不安定で、運動不足の私には登るのも精一杯だった。



「さて、寝よう。お休みなさい、そして…さようなら。」



さぁ、この意味不明な世界に別れを告げよう。

目覚めたらきっと、目の前には見慣れた部屋の天井が見える筈。

そう信じて、眠りに就こう。



さらば、海賊さん。










暫くして、五月蝿いくらいの騒音に目覚めた私が見たものは。



寝る前に見た木目調の天井をバックにした、オレンジ色の洒落たテンガロンハットと。

雀斑を散らした愛嬌ある青年の笑顔だった。





嗚呼、夢はまだ覚めないのか…。
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