TRiP

□フリーター卒業
1ページ/2ページ



ナースの皆さんの努力により、なんとか着るものは確保した。


下着は我が儘言えないし、余り気にしない性質もあって、マリーさんのお古のブラに大量のパットを詰めて、パンツは縫い繕って何とか用意した。



それにしても、このセクシーなランジェリーは…。



いや、メアリさんのよりは全然布の面積は有るし、リードさんの三角ブラにTバックよりは良いが…初めて履く紐パンは、やはり落ち着かない。


出来ればセイラさんの可愛い下着か、グレイスさんの清楚な下着が良かったが…。


まぁ、一番驚いたのはポートさんだ。

スポーツブラという、小学生かよとツッコミたくなる代物だったから、申し訳無いが此方から遠慮したい。



そんなこんなで、取り敢えず目が覚めたし、着替えたんだから船長室に行こうとなって。

皆さんと一緒に向かう事となった。



…まぁ、案内役争奪戦が勃発した結果、ナース長であるメアリさんの一喝で、全員でと纏まったから全く問題無く終わったんだが。



「それにしてもリンゴは、運が悪いのか運が良いのか…。」


隣にいたメアリさんが苦笑する。


何やらあの赤い髪の男シャンクスは、この海賊船の船長の領土の島に上陸したいとの事を伝える為だけに、酒を手土産に来たらしい。

そのついでに何処ぞの海賊船を襲撃して、その何処ぞの海賊船に私が乗っていたんだと。


ポートさんからは、さっき見たパインパパ(通称・白ひげ)とシャンクス(通称・赤髪)は世界でも四本の指に入る最強の海賊であると聞いた。





だが、私の僅かな本から得た知識だと。

そもそも海賊が沢山いた時代って、十五世紀末の大航海時代の私掠船から始まって、私掠船が廃止された後に衰退してって、蒸気船の誕生で…確か十九世紀辺りに終わった筈。

私が生きた時代は二十世紀、もしくは二十一世紀だ。



どっかの国の海や、日本の捕鯨船に対して、まだ少数ながら海賊が存在する事は知っていたが。

私の生まれた時代に、海賊はいないと言っても過言では無い。


しかし、ポートさんに『今は海賊時代ですよ。』とはっきりと言われてしまった。




此処で私は奇妙な事に気付いた。




髑髏の旗…つまり、ジョリー・ロジャーを掲げる帆船は、カリブの海賊だった筈だから、完全に英語圏だ。

それに、内装やら何やら見る限り、そしてナースのお姉様方の話を聞く限り、確実に此処には欧米文化が入っている筈。


それなのに、何故か普通に全員が日本語を話している。

それに対して『言語はこれだけよ。』とポートさんに言われたという事は、世界一難しい言語と言われる日本語が世界共通語になってるという事だ。



それに加えて、実在する海賊の名前を言うと、皆が口を揃えて知らないと言う。

似た名前は有るみたいだが、世界一有名と言っても良い『海賊黒ひげ、エドワード・ティーチ』の名前を、海賊が聞いた事無いという。


逆に、ポートさんの話す世界の事を、私は知らない。



どうも、変なズレを感じて仕方が無い。





「…船長さん、どう思います?」


船長室に着いて直ぐに、メアリさんがその話を船長である白ひげさんにすると。





「こいつァ面白ェ…お前ェ、別世界の人間か?」





そんな言葉が返ってきた。


別世界?

あぁ、別の世界って事ね。

つまり、アレか。

異次元的な?

異世界的なアレですね。





「えええぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!!!?????」

「グララララララッッッッ!!やっぱり面白ェ小娘だっ!!」





いや、笑えないからっっ!

こっちは驚いてますよ?全力で私驚いてますよ?!



「来ちまったモンはしょうがねェっ!帰れるまで、この船にいりゃア良い!!」



愉快そうに言いやがったあぁぁぁぁぁぁあっっっっっっ!!!!



「そうね、下手に下ろして野垂れ死にするより良いわ。」



マリーさんまで、サラリと怖い事言ったああぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!

怖いですマリーさん、私怖いです貴方が。


そんな思いで、顔面蒼白のままマリーさんを見つめていると。




「まぁ、死にたいと言うなら私は止めないわよ?リンゴ。」




絶対零度というか氷点下というか、そんな微笑みでマリーさんに言われてしまえば、答えは一つしか無い。





お父さん、お母さん。

お元気ですか?

私は、元気じゃ無いです。


そうそう、今日をもって私、フリーターを卒業します。


そして、今日から職場と部屋は海賊船です。

職業・海賊です。


二人共、どうかお元気で。


林檎より。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ