TRiP
□帰り道
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「そういやリンゴさ、帰r _ドサッ ぐー…。」
「は?へ?ええぇぇぇぇぇええええっっっっっ!!???」
「気にするなよい、リンゴ。」
「そうそう。って初めて見たの?リンゴちゃん?」
山盛りというか富士山盛りというかエベレスト盛りなエース君のご飯は見慣れたが。
顔面ダイブは初めて見たぞ。
「いやいや…え?何?い、生きてるコレ?大丈夫?大丈夫なの!?」
「寝てるだけだよい。」
「いやいやいや、有り得ないから!」
「…鼾聞こえんだろい。」
「…ぐー…。」
「いやいやいやいや…あ、確かに。」
え?マジで寝てんの?
凄いな、エース君!素晴らしい特技だよ!
いや素晴らしくは無いが、凄い特技だよ、うん。
「ぶフォッ!!…寝てた。」
「「知ってる」よい。」
ちびマルコもサッチさんも冷静だな、おい。
だが、海賊(仮)なって六日目の私は冷静にはなれないぜ!
しかもマジに寝てたのにはビックリなんだぜ!畜生!!
「…で、リンゴちゃん!バーいつオープンすんのよ?」
早くリンゴちゃんオリジナルカクテル飲みてェなァ!
片手で肘を付きながらニッカリ笑うサッチさんに、ちょっとってか滅茶苦茶嬉しくなって。
「今日、晩ご飯の片付け終わったらやるよ!」
そう私もニッカリ笑って答えると、良い子って大きなサッチさんの手で頭を撫でられた。
その大きな手が、ふっとバイト先の主任を思い出させた。
厳しいというか…人件費削減だか何だか知らないが、フリーターなのを良い事に昼夜不規則でシフトを組んでくる店長に対して、憤りを感じながらも何も言えない私に。
『あー…シフト変更ごめんね、ありがとう杜ノ都ちゃん。』
『いつもお疲れ様、杜ノ都ちゃん。これコーヒー!店長には内緒で、ね。』
よくそう言って、主任は私の頭を撫でてくれたものだ。
田舎の実家から出てきて、専門学校行って、就職せずにフリーター続けて。
自由気儘だと友達からは羨ましがられたりしたが。
本当は、いつだって不安だった。
就職難な今、大した資格も免許も無い私は、はっきり言って例え求人誌に『未経験者歓迎』と書かれていても、弱い。
実家には頼れないし、寧ろ就職しろと両親は勿論親戚からも言われる。
よくストレス発散や悩み愚痴に付き合ってくれた親友は、就職の為に地元に行くか、関東関西の都会へ行ってしまった。
一人暮らしは気楽だし、自由だと笑いながら私は言っていたが。
寂しくない訳じゃない。
寧ろ、寂しくなる時の方が多い。
そんな私のくだらない様な話を真剣に聞いてくれるのが、主任だった。
主任は結構年上だが、気さくで友達の様に気楽に話せる。
そんな主任を、ふと思い出してしまった。
そして、それと同時にある事を思い出した。
_私は、この世界の人間じゃない
そう、自分には自分が在るべき世界が存在する事に。
今更ながら、思い出したのだ。
「…ちょっと、書庫行ってくるー!」
バイトで鍛えた営業スマイルに営業ボイスで、ヘラリと笑って片手をヒラヒラ振って食堂を出た。
ちょっと、この世界に順応し過ぎて忘れていたが。
…違う、ただ単に考えない様にして逃げてただけだ。
それじゃダメだ。
ちゃんと見なきゃ、ちゃんと問題と向き合わなきゃ。
帰り道を、ちゃんと探そう。
静かに、そう決心した。
私にも、家族がいる。
私にも、友達がいる。
私にも、大切な人達が、いる。
それを、忘れちゃ、いけない。