TRiP
□サッチ先生との調理実習
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モビー君に戻ると、ちびマルコが仁王立ちしていた。
ついでに言えば、眉間の皺が深い。
更に言えば、私もエース君も笑顔が凍り付いた。
「…リンゴ、お前ェの世話は俺が一任されてんだよい。分かってんのかい?」
「はははははははいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいっっっっっ!!!!」
「勝手に消えられっと困るんだがねい?」
「さ、さささ、左様で、御座いまするです、はい。」
「首輪でも付けられたいかい?」
笑顔が怖いです、マルコ様。
笑ってんのに額に青筋走ってます、マルコ様。
首輪は勘弁して下さい、マルコ様。
何故か一緒に正座するエース君も冷や汗ダラダラだ。
うん、怖いもん。
しょうがない。
「…で?何でお前等までいんだよ。」
場所は変わって、ここは船の厨房。
オープンキッチンで、カウンターからは中が覗けるんだが。
何故かカウンター席にはちびマルコとエース君、そしてモビー君に遊びに来たラクヨウさんが座っていた。
「え?だって飯作んだろ?俺、腹減ったし。」
「ガッハッハッ!エースは常に腹減ってんじゃねェかっ!」
「…お前ェも何してんだよい、ラクヨウ。」
呆れながらちびマルコは言うが。
はっきり言えば、私とサッチさんの方が呆れてる。
あの後、仲裁に入ったサッチさんに救われて。
そしたらエースが『リンゴが料理手伝いてェんだって。』と当たってんだか当たってないんだか分からない事を言って。
それを聞いて喜んだサッチさんに、手を取られて厨房に連れて来られ、そのまま夕食の仕込みを手伝う事になったんだが。
目の前のカウンターに腰を下ろしたのが。
ウキウキと楽しそうなエース君とラクヨウさん。
そして、不機嫌なちびマルコ。
「お前等、リンゴちゃんの仕込み邪魔しないでくれる?」
「お前ェの髪が一番邪魔だよい。」
「ガッハッハッハッ!マルコよく言った!」
「なっ!ラクヨウてめェ!!」
「サッチ五月蝿ェ。なァなァリンゴ、飯まだ?」
「「エースは黙ってろ」い。」
四人の賑やかなやり取りに苦笑していると、サッチさんが慌ててこっちに来た。
「ごめんな?リンゴちゃん、アイツ等五月蝿くて集中出来ねェよな?」
「あ、いや…。」
「ホラホラ、用無いならさっさと出てった出てった!」
シッシッと三人を手で払うサッチさんに。
エース君は『えー…。』と言いながら、『飯楽しみにしてるな!』と輝く笑顔を置いて外へ行き。
ラクヨウさんは『指切んなよォ!』と茶化しながら、手を振ってエース君の後を追った。
「…で、何でお前ェは残ってんだよ、マルコ。」
頬杖付いたままカウンターに座り続けるちびマルコに、サッチさんが顔を顰めながら言った。
すると、ちびマルコはチラリとサッチさんを見て。
「珈琲。」
それだけ言って新聞を広げる。
片足をもう片方の膝に乗せて新聞を広げる姿は、もう普通のオッサンだ。
…髪型は普通じゃないが。
それに目を瞑れば普通のオッサンだな、うん。
サッチさんから出された珈琲を、そのままブラックで飲みながら、ちびマルコは胸ポケットから眼鏡を取り出す。
“へぇ…目悪いんだ。”
チラッとちびマルコを見た時、パチリと目が合った。
老眼ですか?って寸前で聞かなかった私を誰か褒めてくれ。
「…何見てんだよい。」
「いえ、あの…眼鏡…。」
「あァ、小さい文字が見にくくてねい…年だねい。」
そう言って、くしゃっと苦笑するオッサンが。
無駄に格好良くみえてしまっただなんて。
コレは、アレだ。
眼鏡現象だ、間違いない。
ギャップ萌えとか眼鏡萌え的なアレだ。
決して、違う。
絶対に恋だなんて、認めてやらないんだから…っっ!!
…ツンデレな自分って、気持ち悪い。