短編

□ケジメ
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ゼルダ様は大変お美しい。姿だけでなく、国を思いやる心と悲深い心を持っていらしゃる美しいお方だ。
そのしるしに、ならず者だった私の命を助け、護衛という職をお与えになった。
ゼルダ様は、穏やかな雰囲気を纏っているが、どこか王族の威厳が醸し出し、ゆくゆくはこの国を統べる者としてなるはずだった。


「まだ、息はあるな。
ゼルダはどこにいる?」


私の髪を掴み、無理矢理顔をあげさせるゲルド族の男。
そうこの男だ。この男のせいでハイラルは滅び、ゼルダ様は追われる身となった。
1ヶ月前、ゼルダ様は私の前から突然消えた。
乳母であったインパ様に問いつめたが、なにも言わずただ黙っているだけ。
ただ、わかることはゼルダ様はハイラルを救う為に動き始めたと言うこと。
途方にくれる私は、ただ平原を歩き、この男と偶然出会った。勝てるはずもないのに、私は剣を抜いて勝負を挑んだ。


「おい、口を動かすぐらいできるだろう。さぁ、どこにいるゼルダは」


結果はご覧のとおり惨敗。

笑える。
なにもかも、すべてに笑える。
ゼルダ様の居場所を知らない私を知っていて聞いてくるこの男に。勝てもしないのに挑んだ私に。男が私を好いていることに。
男本人は気づいていない。知っているのは私だけ。
ハイラルが滅びる前、男が私を見る目が変わっていることに私は気づいた。そう、あの目は人を思う目。ならず者だった私にはわかった。
いつからだろうか。男が私を、そういうふうに見るようになったのは。
城で出会ってからだろうか。それとも、ならず者だった頃からだろうか。
わからない。
男は無意識にだろう。私を生かそうとする行動は。
これもそうだ。言おうが言わないが、捕虜にすることができる。
私はごめんだ。
私のすべてはゼルダ様。
ゼルダ様を裏切る様な行動は絶対にしたくない。

……いや、そんな理由ではない。ただ、私は弱かった。男の気持ちを知っただけで、己の信念が揺ぐ。
ケジメ。そう、これはケジメだ。


「……死ね」


そう言って私は、隠し持っていたナイフを男に向けず、一直線に自分の心臓目掛けて刺した。
徐々に服にシミを作る血。薄れゆく意識なかで見たのは、男の無表情な顔だが少し焦っている様な雰囲気。

最後に思った。
私は、この男のことが憎くて好きだと。



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