短編

□性欲とはなんだ
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「暴れないのかい」と、ギラヒムは無理矢理押し倒して跨がった女に対して妖艶に言った。しかし、女はギラヒムなど眼中にあらず、後ろにある空をぼんやりと見た。
「星が綺麗」
ギラヒムは思い切り顔を歪ませ、名前も知らない女を殴った。すると、女は赤く腫れた顔をギラヒムに向け言った。
「なに」
ギラヒムは、また女を殴った。
「ヤるんならささっと突っ込んでくれない」
鼻から血が出ているのを気にとめず無表情で言う女に、ギラヒムは昂った心を落ちつかせた。そして、歪ませていた顔をいつもの余裕ある表情にした。
「期待させてすまないが、そういった事は興味がない以前にやれないんのだよ」
自我を持った人型の魔族であり、文字通り仕えるべき主の剣であるギラヒムは性欲がなかった。興味本意で人間の性行為を近くから見たことがあるが、何も感じなかった。むしろ、自分のブツは不能なのかと思った。知識があったために、その事にはいささかショックを受けた。とにもかくにも、ギラヒムは困りはしなかった。むしろ、その方が良いと思った。性行為に勤しむ時間があるなら、自分を磨いた方がためになるからだ。しかし、性欲がないギラヒムには別の欲があった。加虐心と支配欲だ。それを自覚したのはつい最近のことだ。
夜になるとどうしても無償に苛立つ心。ギラヒムはどうしても耐えられない時だけ、身近な物を壊すことにより解消した。始めはコップを思いっきり壁に投げた。その次は、椅子やテーブルを自ら殴ったり蹴ったりして壊した。こうやって解消していたが、どんどん方法がエスカレートしていった。解消法は部下の魔物まで巻き込んだ。当初は少し痛めつけてるだけだったが、ギラヒムはある時に抑えきれずに近くにいたボコブリンの首を剣で跳ねた。そして、残った胴体を散々気がすむまで剣で刺した。その一件以来からギラヒムは部下の魔物を痛めつけて殺すことで解消するようになった。しかし、その方法は存外早く終わった。ギラヒムはこう思った。従順な部下を嬲り殺しても、何も面白くないと。では、どうするかと考えたギラヒムは、試しに真夜中に人間の集落の女を襲った。一人暮らしであった女。特に理由もない。理由を上げるのなら、たまたま灯りがついていたぐらいだ。
ギラヒムは、その家に忍び込みことに及んだ。女は当然悲鳴をあげた。ギラヒムにとってそれは、心が満たされ加虐心をくすぐられた。
手始めに、女を力でベッドに押さえつけ首を絞めた。女は目を見開き、口を大きく開けて空気を求める。足をばたつかせ、首を絞める彼の腕を手で掴み爪を立てる。ギラヒムは、更に力を加えた。女は、一度先程よりも足をばたつかせたがすぐに止まった。そうして、女が死を迎えようと目を閉じた。その瞬間、ギラヒムは絞めていた手を離して女を平手打ちした。女は訳が分からず、ただ噎せて大きく息を吸って空気を求めた。
女の息が落ちつくと、ギラヒムは彼女の肩を舐めて思いきっり噛んだ。女は暴れる。最初から薄々分かっていたが貞操の危機だと必死に暴れた。肩を噛んでいる男を引き剥がそうとしたが、左腕を掴まれ手をあらぬ方向へと曲げた。声にならない悲鳴をあげた。涙がぼろぼろ溢れた。痛い、ということだけが心を占めた。
ギラヒムは、その女の様子に興奮していた。もちろん、性的な意味ではない。今まで、解消されず満たされることがなかった心が満たされ欲を出したのだ。
ギラヒムは気が済むまで女を嬲った。腕や足をあり得ない方向へと曲げたり引きちぎり、眼球を抉り出し、喉を潰し、乳房を剣で切って、気がつけばギラヒムは女の腸を手に握ってベッドの傍らに立っていた。
まばたきを数回して、現在の状況を確認した。今の時間帯は早朝前、日が登り始める一歩前。ベッドと己は女の血で赤い。女は顔が潰れており、身体はぐちゃぐちゃで無事だった髪の毛以外では誰だか判別できなかった。
ギラヒムは持っていた腸を捨て、女だった物をよく観察した。顔は片目がなく、鼻は切り落としたため空気の通りが良くなっていたが、口は縫われているためそこからは通れない。首は縦一文字に開かれ声を出す器官が潰されており、肩からは骨が飛び出されいた。腕と足はあらぬ方向へ曲げられており、内出血や肩と同じく骨が飛び出されていたりしていた。胴体は、胸が無惨にも切り刻まれ、片方の乳房は切り落とされる手前でくっついていた。そしてお腹は切開され内臓が飛びだし、子宮が目立つ位置に置かれていた。ギラヒムはその姿におおいに満足して、部屋から出ていった。
それから、ギラヒムは数回人間を襲っては嬲り殺し、前述のような死体にした。そして気がついた。自分の加虐心と支配欲に。
ギラヒムが襲う人間は、決まって容姿が美しい人間であった。その人間の恐怖や諦め、生にしがみつく惨めさ必死さが心地よく、失笑するものだった。また、美しい人間ほどグロテスクな死体にするのが面白かった。
今宵の女は、気が強く冷めた性格。それはギラヒムにとっては好ましい。女の悟っていると嘘ついている顔を引き剥がし恐怖の顔にするのが大変滑稽だからだ。
今からどうしてやろうかと考えると、ギラヒムは身体の奥から疼くのを感じた。人間ならそれは性欲になり勃起につながるのだが、ギラヒムはそこまで感じない。
「なんだ、私も滑稽じゃないか」
気づかないうちに口にしてギラヒムは嘲笑した。



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