将軍記

□02
1ページ/1ページ



全身が黒だった魔物には何もなかった。
その魔物は後に勇者と呼ばれる者の影だった。勇者に似た顔、服、体つき、表情、全てが勇者を元にして造られた。唯一、勇者を元に造られなかったのは性格だ。その魔物には性格は、いや自我が存在しなかった。ただ、魔王の命令に従順に従った。人間を殺せと命じれば人を殺し、何もするなと命じれば人形のように動かず何もしない。
そんな魔物にたった一つアイデンティティーのようなものが生まれた。後に魔将軍と呼ばれる女が、気紛れにその魔物に赤い瞳を造ったのだ。
それからその魔物は、自我が目覚めて赤い瞳を誇るようになった。勇者とは正反対の色、自分だけの色だと思い、大切にした。




沈んだ意識が浮かび、意識がはっきりしないなか、彼は瞼を開いた。その開いた瞼の奥の瞳は血を連想させるように赤かった。
懐かしい夢を見た、と思いながらソファーから身を起こす。
寝る前に何をしていた。頭をかきながら周りを見る。
事務机を中心に紙がいっぱい散らばっているのが視界に入り、部屋の中心で書類を敷き物にして床で寝ている将軍。なぜ、事務机で座ったまま寝ない。
近づいて膝をつき、将軍の体をゆすって起こそうとする。だが、将軍は眉をよせて寝返りをうつ。書類の紙が体にくっついてかけ毛布のようになり、本当にベットで寝ている姿になった。今度は名前を呼びながら体をゆするが、まったく起きる気配がしない。
これ以上無駄だと決めた彼は、将軍の隣に寝転がった。そして、腕を伸ばして頬をさわった。
ゲルド族は種族と気候ゆえか浅黒い肌なのだが、将軍はなぜか肌はあまり黒くない。かといって、ハイリア人のように肌は白くはない。
次に、赤い橙色の髪を指に通す。手入れがされていない髪は、質が悪く、ツヤはなく、櫛でとかしていないのかサラサラではなく毛が絡み合いダマができていた。手でとかしそうとするとすぐにダマに邪魔されて止まってしまう。それでも彼にとったら心地よかった。心が満たされた。




go back

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ