秋組

□大人たちの卒業式
1ページ/1ページ




「陽日先生、何ですか、そのケース」
俺が抱えてるビールケースを見ると、水嶋が呆れたように言う。
この日に備えてあらかじめ、町のスーパーから調達してきたものだ。

それをスーツを首に巻いて、ここまで運んで来た。


今日はかねてより、琥太郎センセの部屋で、飲み会をするって決めてたから。


水嶋は、猫を抱き上げながら、こちらを見ている。

「何って、ビールが入ってる」
「そんなの、見ればわかりますよ。僕が言ってるのは、その量です。多すぎませんか?」
「そうかー?俺には少なすぎるくらいだぞ」
「どこがですか…」
「これだけじゃないぞー」

あとな、とにまっと笑って、床に置いてあったビニール袋から、瓶を取り出した。次々並べていく。

「焼酎に、日本酒、梅酒」「どれだけ飲むんですか…」
「いいだろ、どんだけだって。酒を飲むのが、大人の特権なんだ!」
「だからって、限度があるだろ、直獅の場合」
部屋の入口から、琥太郎センセが顔を出す。

「ほとんど一人で飲んじまうんだから」
「いいじゃんいいじゃん。これだけが楽しみで生きてるんだから」
「お前は少しは、酒以外の楽しみを持て」
「えー、琥太郎センセの意地悪ー」
「そうですよ。でないと、付き合わされるこちらの身になってください」
琥太郎センセと水嶋の2人に言われて、俺はぶーっと口を尖らせる。

「でもさー、今日ぐらいいいじゃんか。飲みたい気分なんだ」

そう言うと、2人は急に黙り込む。
俺の気持ちを察してくれるように。

「まぁね、今日ぐらいは」
「そうだな…」
水嶋が、床に置いてあるビニールを取ると、中に運んでくれる。

「それじゃ、今日ぐらいは、陽日先生に付き合いますよ」
「水嶋…っ!」
「ちょっ、陽日先生、泣かないでくださいよ、いい加減子供じゃないんですから」
「そ、そうだな、そうだよな!」
「直獅は本当まっすぐだな」
「当たり前だろ、俺からそれ取ったら何が残るんだよ」
「チビ」
2人で声を揃えて言われ、俺はかちんとなった。

「何をーーっ!」





…今日は、とことん飲むって決めていた。

一年に一度の、生徒たちの旅立ちの日。卒業式。

俺の生徒たちが、それぞれの夢を求めて、羽ばたいていく。めでたい日だ。


もちろん、俺には、嬉しさもあるが、同時に寂しさもある。だけど、そんなこと、あいつらに言えるわけないじゃないか。

俺は大人で、笑ってあいつらを送らなくちゃいけない立場なんだ。

だから、終わったら、とことん飲むと決めていた。

これは、祝杯だ。

あいつらへの。

頑張れ。

頑張れ。

辛いこともあるだろう。

だけど、お前らなら乗り越えられるって、俺はちゃんと知ってる。

ここで学んだことが、お前らの財産だ。

星を見たいなら、いつでも戻ってきていい。

星月学園の門は、いつでも開いてるんだから。

ここから、いつでも応援してるから、

だから…頑張れよ。
卒業おめでとう。
お前らが夢を叶える日を楽しみにしているぞ!


「んー、おめれろー…」
「珍しい、陽日先生が潰れちゃったよ…」
「よっぽど、寂しいんだろうな」
「そうだね、意地張って言わないけどね」
「まぁ、今日は酔わせてやれ。こいつにとっては、一年一度の悲しい日なんだ」「そうだね。…っていうか、このお酒の山、どうするの?」
「起きたら、直獅が何とかしてくれるだろ」




After Autumn発売記念。
スーツの先生たち!






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ