Theatre1
□Episode 1
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トンネルを抜けた先とか、穴に落ちた先とか、そこには別世界が広がっていることはあるかもしれない。
○尋もア○スもさぞ吃驚した事だと思う。
けど。
私はもっとびっくりしています。まる。
「ここは一体どこ…?」
現実逃避していた頭を戻してあたりを見回してみても、まったく検討がつかない。
そもそもカーテンに仕切られていてベッドに寝かされている事すら、理解できていないのだ。
唯一わかるのは天井が今時気珍しい、ログハウスのような造りだという事。
「病院…なのかな?起きちゃいますよー?」
怪しさ満点だけれど、ずっと寝ているわけにもいかず上半身を起してみる。
どこも痛くはないし、外傷も…っ!!!
起こしていた身体を戻し、ベッドに逆戻り。
先ほどと違うのは、隙間なんてないほど頭まですっぽり包まった事だろうか。
「え?や?えぇ!?」
絶賛混乱中。
なぜ?って言葉がぐるぐる頭を巡って、身体が固まって動かない。
それでも一度認識してしまえば、肌に触れる感触がリアルに伝わってくる。
「あれ?なんで私はパンツ一丁なんですかー!?」
徐々に理解し始めると、身体が熱をもったかのように熱くなる。
どういった経緯でここにいるのかわからないけど、寝かされていた理由もわかないけど、誰かが私の服を脱がしたのは確かだ。
なんたって私に突然服を脱ぐ悪癖はない。
見知らぬ場所で全裸=誰とも知らぬ人に見られた。
何を=裸を。
「お、お嫁に行けない…っ!!」
うぁーと言葉にならない声が漏れる。
なんだってんだ、花も恥じらう16歳の乙女だぞ。
「とりあえず、この状況をなんとかしないと」
まだ頬、むしろ身体全体の赤みは引いていないけれど、いつまでもこのままでいるわけにはいかない。
というかいたくない。
もぞもぞとかぶっていた布団から目だけをのぞかす。
目の間にあるのは仕切られたカーテンのみ。
人の気配も…ないな。
ごくり、と唾を飲み込んで隙間から腕を伸ばしてカーテンを引く。
ゆっくりカーテンを引いていけば、ようやく部屋の全体が見渡せるようになった。
「病院…というより、診療室…か、なにか?」
診察机と思しきものと、薬品棚っぽいもの。
きょろきょろ見回して、人が隠れそうなところがないことをチェック。
「ん、誰もいないよね」
自分一人であることを確認。
カーテンを全開にして、ちゃんと扉があることも確認。
逃げ場があるならこっちのものだ。
「とくれば、さっそく逃げなきゃ」
ここがどこだかわからないうえに、ほぼ全裸にされているのだから逃げたほうがいいだろう。
もしかしたらどこかに連れ込まれているのかもしれないし、三十六計逃げるにしかず!!
そっとベッドから足をおろし、すばやくベッドシーツをはぎ取って身体に巻きつける。
「まぁ、さっきよりは恥ずかしくない…か」
シーツをぐるぐるにまきつけて、外れないようにしっかり結ぶ。
鏡がないから確認はできないけど、隠したいところは隠せてるし、いいよね。
手を腰に当てて、扉の前に仁王立ち。
扉をじっくり見れば、鍵穴らしきものが見当たらない。
ということは、もともと鍵なんてものはないってこと。
「ふふふっ、まさか私が数々の脱出ゲームをクリアしてきたとは思っていないでしょう!こんな鍵もない扉、なんてことないんだから!」
いざ!と足を前に出し、目指すは外の世界。
そして警察だ。
いささかこの格好で外に出るのは抵抗があるが、命、若しくは貞操には代えられない。
ドアノブを握り、呼吸を整えてから勢いよく扉を引いた。
ゴッ!!!!!
「っ!!!!!!!!!!!!!!」
「あれっ??」
なんてこった。
まさかのスタート地点でゲームオーバー。
おでこが痛すぎて動くことすらできず、扉の前で座り込む。
引いた私と押した人との相乗効果で、痛さは2倍だ。
うっすら涙なんて可愛いものじゃないか。
ぼたぼたあふれ出る涙を止めろなんて言う人がいたら殴ってやる。
せめてもの抵抗で少し開いた扉がこれ以上開かないよう足カバー。
「あーうーっ…」
…なんて冷静ぶってみたが、本当は痛くて動けないだけだ。
「え?今ゴッって…ってレディー?!大丈夫かい…?!」
「だ…いじょうな、わけ…」
押したであろう人の声が扉の向こう側から聞こえてくる。
声からして男であろうその人に、緊張が走ったのも一瞬。
扉の向こうから伝わる焦った空気に、なんだか危機感が薄れてくる。
今も扉をあけるかどうか悩んでワタワタしているのだろう。
先ほどからドアが小さく動いている。
思わず観察していると、突然ぴたりと動きを止めた。
「あーレディ?開けてもいいかな?」
どんな人かもわからないけど、カワイイと思ってしまった私は間違っているだろうか。
「可愛いなぁ…もぅ…」
呟きながらもズリズリと扉の真正面から、横へとずれていく。
「レディー?どうかしましたか?」
さっきからこうして私に気を使ってくれているこの人に、もう腹をくくるしかないだろうと決意。
これで開けてみたら、すごい極悪人でしたってオチでももう驚かない。
「その時はジュリアさんの教えで、海の藻屑にしてやる」
気合は十分。痛む額を意識からはがしてゆっくり立ち上がり、今度こそ扉を開いた。
真っ先に目に入ったのは綺麗な金色に輝く髪。
黒いスーツに身を包んだ男の人。
そうして顔に目線が移った私は、自分の目を疑った。
「まさかのぐるぐる?」
あの衝撃は今後も忘れることはできない。
私と彼の記念すべき、ファーストコンタクト。