Book童話のおはなし
□人魚のデートのおはなし
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キラキラと光の差し込む明るい城の中。
紅茶の香りの満ちた暖かい執務室からは、ぎゃいぎゃいと騒ぐ声が響いて使用人達を驚かせていました。
「いい加減に離せキール!今日の仕事は終わらせただろうが!」
「ですから王様方がお呼びですと言っているでしょう!」
「誰が行くか!どうせ結婚はいつだのプロポーズはしたのかだの余計な事ばかり言われるんだからな!」
「貴方様が行かれないと私がそれを聞かされるのですよ!私はまだ仕事が残っているのです!」
「それが従者の言う事か!変わりに私が聞いておきますくらい言ったらどうだ!」
「なんで私がそんな事を言わなければいけないんですか!サボる暇があれば説教くらい聞いて言って下さい!」
「あんな長ったらしい説教聞いていたら約束に遅れるだろう!」
「…約束?」
王子の袖をぐいぐいと引っ張っていた手をキールがぱっと離します。
「どわっ!」
王子は見事にひっくり返ってしまいました。
「…キール、貴様、」
「なんです、カジストリ様とのお約束があったんですか?」
「そうだ、それよりお前、」
「それならそうとおっしゃって下さい。さあお早く準備しないと遅刻してしまいますよ、なになさっているんですかいつまでも地面になついていないできちんとお立ち下さい。」
「…ああ?なんでいきなり強力的になってんだ。」
「ですからカジストリ様とデートなんでしょう?それなら王様方もお喜びになるでしょうし。」
「なっ…!なにがデートだ約束してあると言っただけだろう!ただ海の中を案内してくれるだけだ!」
「…それがデートではないですか?」
「……!?」
「さあさあお早く。行ってらっしゃいませ。」
「…ああ。」
執務室からとぼとぼと歩く王子の背中はたいそう情けないものです。
しかしちらりと覗く、真っ赤な耳元に比べればどうと言う事はありませんでした。