Book童話のおはなし

□魔法使いのおはなし
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____この物語は世界で1番、有名なハッピーエンドから始まります。

美しくも賢く、優しいシンデレラ。

そのプリンセスは受けた恩は返すべきだという、とても当たり前で、とてもすばらしい常識を持っていました。


「王子様、わたくしにはお礼をしなければならない方がいらっしゃるのです。」

「姫、それはどちらの方ですか?」

「はい、わたくしに魔法をかけ、愛する人に合わせてくれた方です。」

「おお姫!それは私にとっても大切な方。どのような方でしたか?」

「はい。
…黒髪に黒いローブ、高いわし鼻。白く骨のように細い指には薬品の色が染み付いて、声はまるで枯れた木のよう。

それはそれは立派な、
魔法使い様でしたわ。」




ある朝、都に出されたおふれを見たある男は思わず叫びそうになりました。

とっさに口を抑えうつむき家へと帰りましたが驚きは消える事がありません。

なんでこんな事になったのでしょう。

頭からかぶった黒いローブを外し、くしゃくしゃと髪をかき乱します。



男が見た物はこんなおふれでした。


_____我が妃、シンデレラ姫の願いを叶え、また我が妃と私の出逢いを叶えた善良なる魔法使いに礼を取らす。早急に名乗り出るよう。



そう、その男こそが『善良なる』魔法使いなのです。

魔法使いはぶつぶつとつぶやきながら部屋の中を歩き回ります。

「くそう、誰が善良なる魔法使いだ。礼なんかいらない、ほっておいてくれるのが1番だ。いやだいやだ、名前も言わなかったんだからわかるだろう、いやだいやだ。」

かつかつと部屋を歩き回り、ざらついた細い指を擦り合わせました。


魔法使いの仕事は、家にたずねて来た色々な人へ魔法薬を作る事です。

その魔法薬の中には子供のかんのむしを消す薬もあれば、恋人達の仲を引き裂く薬、嫌な相手の調子を崩す恐ろしい薬など様々です。

なので、魔法使いは街の人からの評判はあまり良くありませんでした。

それでも魔法使いは自分の作る薬の効き目に自信を持ち、作る事の難しさに誇りを持っていましたのでこの仕事が嫌になった事はありません。

町外れの森に一人住み、たまに訪れる客に薬を渡す。

それ以外の事を考える事もなく、森の中でひっそりと過ごしてきました。


そんな魔法使いがあの優しきシンデレラを助けたのにはもちろん理由があります。


実は昔々、魔法使いとシンデレラは友達だったのです。



あれは魔法使いが小さな小さな男の子だった頃の事です。

小さな小さな男の子には友達がいませんでした。

体が小さくて皆の足の早さについていけず、いつもひとりぼっちで遊んでいました。

そんな小さな男の子を見つけて一緒に遊んでくれた優しい女の子、それがシンデレラだったのです。

男の子はシンデレラに会ってすぐに老いた魔法使いに引き取られたので、一緒に遊べたのは片手で数えられる位でした。


それでもシンデレラは小さな男の子の初めての友達で、
魔法使いのたった一人の友達でした。


そんなシンデレラの噂を聞いたのはついひと月ほど前でした。


その酷い噂を聞いて魔法使いは驚きました。

優しいシンデレラがそんな辛い目にあっていたなんて。


聞いたからには助けない訳にはいきません。
なにしろ友達なのですから。

シンデレラはきっと魔法使いの事は覚えていないでしょう。

でもそれで良いのです。
優しいシンデレラに怪しい魔法使いの友達なんていたらおかしいのですから。


魔法使いはシンデレラに魔法をかけました。

そしてとても幸せになったのはみなさんも知っての通りです。


それだけで魔法使いは良かったのです。

お礼なんていりません。

だって魔法使いは、友達を助けただけなのですから。





 
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