読み物《短編》

□走馬灯
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時計の短針が天を仰ぎ、闇夜が支配する英国の街。
葬儀屋の店の前に伸びる影。
バタンという音と共に店内に感じた気配に眠っていた葬儀屋は目を覚ました。
気配の主には心当たりがある。



「おやおや……どうしたんだい?こんな時間に訪ねて来るなんて……」



突然の訪問に驚きつつも、いつもの様にお茶の用意をしながら尋ねる。
が、どこかグレルの様子がおかしい。
思い詰めた表情を浮かべた彼の目元はメイクが落ち、擦ったのかうっすらと赤く腫れていた。



「……ごめんなさい……」



「いや……とりあえずお飲み。」



「……ありがとう……」



消え入りそうな声、差し出した紅茶を受け取る手は指先まで震えていた。



葬儀屋は何も聞かず、紅茶に口を付けるグレルをただ黙って見つめた。
紅茶を飲み落ち着いたのかグレルはやがて、ぽつぽつと話し始めた。



「……今日……一人の老女の魂を回収したの……」
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