読み物《短編》

□空回り
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――おかしいねぇ……。目の前には棺に入ったお客さん。静かな店内には小生一人。仕事をするのに理想的な環境の筈なんだよ。



でもねぇ、作業の手は進まず彼が出ていった扉を見つめたまま小生の体は動かないんだ。



事の発端は何だったかねぇ。いつもの様に彼が訪ねて来たんだよ。しかし、生憎立て込んでてね。なんでも、ロンドンで連続殺人が起こっているみたいでね、伯爵と執事くんも訪ねて来たし……まぁ情報は提供してあげたからすぐに解決するだろうね。彼らは優秀な女王の番犬だ。



おっと話がそれてしまったね。



そう、赤い彼が訪ねてきたんだよ。
随分と疲れているみたいだったねぇ。まぁ小生が忙しいという事は死神も大忙しという訳さ。
忙しい合間を縫って店に顔を出してくれたんだね。



でもその時の小生は【お客さん】の相手をしていてね、それが解らなかったんだ。早く処置をしなければ【お客さん】は痛んでしまうからねぇ。
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