読み物《短編》

□貴方と二人で…【前】
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「ねぇ、葬儀屋。今日こそ外に出掛けましょうョ。今すぐ!」



いつものように訪ねてきたグレルは、店に入るや否や仕事を終えて、のんびりと紅茶を飲んでいた葬儀屋に切り出した。



「なんだい、またかい。まぁお座りよ。今紅茶を煎れるからねぇ。」



「アンタ、アタシの話を聞いてた?今すぐって言ってんでしょ?」


最近グレルは店に来る度に葬儀屋を外へ連れ出そうとしているのだがうまくいかない。というのも、葬儀屋は仕事以外で自ら外に出る事をしない。一日の大半をこの薄暗く埃っぽい店内で過ごしているのだから出不精にも程がある。



それはグレルといても変わらず、人並み(死神だが)に恋人同士らしくデートなどをしたいと思うグレルは一人悶々としていた。



店にいるのが嫌なわけではない。葬儀屋とこの店で過ごす時間は好きなのだ。葬儀屋お手製のクッキーを食べ、紅茶を飲みながら他愛のない会話をし、肩を並べ、寄り添い、キスを交わす。
二人だけの時間を作るのにこれ程適した場所は間違いなくこの店だとグレルは思っている。
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