君と死ねる明日

□6
1ページ/1ページ

 踏み固められていない柔らかな土の上をざくざくと歩く。少し後ろをもう一つ自分の物よりも間隔の狭い足音が追いかけてくる。文句をつけられる訳でもないし、というか文句を言われたってわざわざカコのペースに合わせてやることはしないが、置いて行くことも出来ないので気だけは配っておく。

 相変わらず彼女の事は気に食わない。だが少しだけ、興味が湧かないと言えば嘘になる。

 そもそも『監視屋』自体に謎が多い。監視屋は皆カコのような人間なのだろうか。それとも彼女だけがこうなのだろうか。俺に救われたと言う言葉に何か意味はあったのか。恐らく、監視期間が終わって彼女が目の前から消えればあっという間に忘れてしまう疑問ばかりだ。答えを知る必要は無い。

 けれど同じように、質問を躊躇う必要もないのだ。カコが答えなければそれでよし。例え地雷を踏んだとして、自分がそれを気にしてやる義理も無い。



「なぁ」
「なーあに?」
「『監視屋』ってのは、誰も彼もてめえみたいな奴なのかぁ?」



 少し間があった。てめぇみたいな奴、という聞き方が曖昧だったせいかもしれない。自分を客観視出来ている人間などそう多くは無い。言葉を変えるべきか、いや、それも面倒だ。別に答えが得られなくても困らないのだ。

 無言のまま二人の位置ばかりが変わっていく。スクアーロが自分の問いを忘れかけた頃になって漸く、背中に返答が投げ返される。



「…まあ、大体そうですね」



 残念なことに、ね。そう締め括って、再び静寂が帰る。それは時折彼女が聞かせるような乾いた声ではなく、普段の明るい声だった。だと言うのにスクアーロの脳裏に浮かんだのは例の狂気じみた笑みの方で、きっと振り返ればそんな顔をしているのだろう。

 なんてのも、ただの錯覚かもしれないが。

 その時、スクアーロが弾かれたように上空を見上げた。カコもそれに倣い、探る様に神経を研ぎ澄ます。そうして初めて何かが近づいてくることに気付いた。気配を消しているようだが、一度気付いてしまえば間違えようも無い。

 刺すような緊張感が場を支配する。見上げた枝葉の隙間からその正体が姿を現した瞬間、カコはあっさりと警戒を解いた。

 木々の隙間を縫って二人の前に降り立ったのは、額に青い炎を灯した華奢な少年であった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ