君と死ねる明日

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 結局背を支えるのには間に合わず、ともかく彼女の真後ろへ回り込むことには成功した俺は反動で吹き飛んだカコもろとも後方の森へ飛ばされた。樹齢の行った大木に強かに背を打ったものの、まあ無傷と言える範疇だ。俺がクッションの役割を果たしたらしく、カコはさらに無傷だ。腹立たしいことに。腹の上で微動だにしないカコを思い切り蹴り落としたことくらい、だからまあこの場合は許されるだろう。



「…撃つなら撃つと言えぇえ!つうかせめて立って撃て、あの高さのもんどうやって支えろってんだぁ!!」
「…」
「う”ぉおおい!!無視してんじゃねぇぇえ!!」
「…ごめんスクアーロ、もう無理」


 あ、と思った時には既に遅く。蹲ったカコは胃の内容物をすっかり戻してしまった。それから暫しの間は苦しげな咳が只管続き、やがて収束。狭い車内で無かったことと、服に被害が及ばなかったことだけが救いだった。



「う”ぉおい、動けるかぁ」
「心配してくれてんの?うっわスクアーロさんやっさしー」
「てめぇを抱えて動くのは御免だからなぁ」
「ぐさっ」
「そんだけしゃべれんなら問題ねぇだろぉ。追手が他に居ねぇとも限らねぇ、おら、立てぇ」
「も、もうちょっと休もうぜ…?…あ、ちょ、待てよ蹴るなって分かったから!」



 まだ幾分ふらついてはいるが、胃がさっぱりしたことで気分もマシになったのだろう。走れるかは怪しいが歩く分には問題が無さそうだ。



「おい、銃器はさっきので全部かぁ?」
「いや、まだあるよ?まーあ、ほら、結構やばい仕事してるし、簡単に襲われちゃうと信用にもかかわるし?結構装備はしっかりしてんのよ」
「重いかぁ?」
「え?持ってくれるの?」
「ここに置いて行け」
「…いいよ、そんなに重く無いし」
「こっから先、遠距離用の装備は必要ねぇ。その装備を抱えて移動すんのは移動ペースを落とすだけだぁ。」
「…そう。じゃあ、何個かは置いて行く。その代わり、何かあったら任せたよ」
「不本意だが、そう言う任務だからなぁ」



 がしゃらんがしゃらんがしゃらん。

 ベルのナイフ並みに収納法が気になる量の様々な火器を目立たない茂みへ隠し、カコはすっくと立ち上がる。先程までの不安定さは無い。

 やっぱ重かったんじゃねえかあ。軽く溜息をついて、歩き出す。

 ふと、何故カコがあんな馬鹿でかい武器を持ち歩いているのだろうと考えた。確かに威力は大きいが、先程の撃ち方はどうにも不安定に見えた。コンディションが悪くとも、構え方や体を支える体勢位は作れる筈なのに、カコはそれさえできていなかった。

 今回は攻撃が功を奏したが、いつでも通用するわけではない。車内から飛び出して足場を得ることが出来たあのケースでだからこそうまくいった。走行中に撃つことも出来たのにそうしなかったのは、単にそれだけの技量がないからだろう。

 あれは、生死が紙一重のこの世界で生き残りたい奴の戦い方じゃない。愚かなのか、それとも生存率を低めてまであれを使う理由が他にあるのか。

 どちらにせよ、護衛する者としては甚だ迷惑な話だ。

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