君と死ねる明日

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 わざわざ時間帯を選んで出てきたため、交通量は極端に少ない。そのこともあいまって突然のカーチェイスはぐんぐんと加速していく。

 スクアーロはタイヤを狙って撃ち込まれる弾丸を、バックミラーで後方を確認しているだけにも関わらず、初めから何処に撃ち込まれるのか知っているかのような正確さで全てかわしていた。

 助手席ではカコが、その人間離れした走行に明らかに参りかけていた。この追いかけっこも、ボンゴレ本部に着くまでだ。頼むからそれまでは吐くんじゃねえぞぉ、と横を見る程度の余裕がまだスクアーロには残っていたけれど、その願いも虚しく、彼女の顔色はますます悪化している。全く、勘弁してくれ。

 一瞬のよそ見の後再びミラーで後方を確認。次の瞬間には、右側で遊んでいたカコの腕を引っ掴む。

 カコの肩が異様なまでに大きく跳ねる。胃に溜まる不快感にほぼ白目を剥きかけていた両目をカッとスクアーロへ向ける。飽きるほど思い返しつくした記憶が目の前の光景と重なる。余りに鮮烈な映像に、記憶と現状の境界が一瞬のうちに溶け去った。

 気付けばカコは掴まれた手を振りほどこうとしていた。

 しかしスクアーロはカコなど見ていない。運転席のドアを開くのとカコを引っ張って車を飛び出すのを一息でやってのけ、道路へ転がる。厄介な預かり物が頭をぶつけないよう一応の配慮はしてやりながら、衝撃を受け流す。ほぼ同じタイミングで、慣性で走り続ける車は眩い熱と閃光に包まれ、炎上した。防弾使用の車体をあそこまで破壊できるのは対物用の武器だけだろう。つまりそれだけ向こうは本気と言うことだ。

 幸い、転がり落ちた直ぐ横には鬱蒼と茂る森が広がっており、確かこれはボンゴレの私有地だ。この茂り方ならうまく向こうを撒けるだろう。自分一人ならヴァリアークオリティを発揮して襲撃者を車両ごと刀でぶった切ってやることも出来ただろうが、何しろ今はお荷物がある。



「う”ぉおい、自分で走れるなぁ?」
「ごめん無理気持ち悪い」
「うるせえ走れ刺すぞ」


 なんだ、こいつを抱えて走んなきゃなんねぇのかよふざけんな。めんどくせえと思いながらも手を伸ばしかけた時、今にも胃の中身をぶちまけそうな顔をしたカコが動いた。

 例のじゃらじゃらと装飾の多いコートの前をボタンを引きちぎる様に開く。道路に座り込んだまま、頭だけこちらへ向けてカコが言い放った。


「スクアーロ、ちょっと背中押さえててもらっていい?っていうか頼む」
「は?」


 誰がてめぇの頼みなんざ聞くか、つーか指図してんじゃねえよ。言い返す前に、彼女がコートの内側から引っ張り出した凶悪な金属光沢が目を焼いた。

 どうやって隠し持ってたんだぁ。呆れるスクアーロの目の前で対物バズーカが火を吹いた。さっきまで自分達を追っていた車両はいっそ感嘆したくなるような派手な爆発と共に砕け散った。

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