君と死ねる明日

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 翌日、スクアーロにとっては最悪に不快な任務が回ってきた。どんな凄惨な任務も顔色一つ変えず受けるスクアーロが全力で辞退しようが、ザンザスの命令となれば逆らえない。



「…クソがぁ」
「いやー、悪いねスクアーロ!あたしの送り迎えにわざわざ!」



 ちっとも悪いと思っていないに違いない助手席のカコを殴ろうとした己の右手を辛うじて押さえつけ、代わりに舌打ちと一瞥をくれてやる。腹立たしいことに、その程度でダメージを与えられない相手ではあったが。

 実際の所スクアーロの任務は単なる送迎ではなく彼女の護衛だった。ヴァリアーを監視中の彼女が何者かに襲われれば、真っ先に疑われるのも、打撃を受けるのもヴァリアーだ。ここまで不快な思いを耐えているのだから、どうしたって彼女にはヴァリアーの信用度を保証してもらわなければ。

 またこの期間中、ヴァリアーを潰したい者にとっても彼女は絶好の標的だ。掴まえて内部情報を吐かせるもよし、こっそり殺してヴァリアーの仕業に見せかけるもよし。

 そんな状況を分かって居てなお、スクアーロは内心、手違いで彼女が死んでも構わないと思っていた。

 彼女の立場を抜きにしても、彼女が嫌いだ。生理的な嫌悪に近い。何となく、それは彼女が本性を現さないからだろうと思う。だが、この世界でそんな奴はごまんといるのに、どうして彼女に対して特に強い拒否反応が出るのかは自分でも分からなかった。



「なぁ。」
「なんだい、スクアーロ」
「てめぇ、俺の事を憎んでんだろぉ?」



 昨日の彼女の言葉で確信していた。感謝の言葉は明らかに表面だけだった。恨まれるようなことなら数えだせばきりが無いほどやってきたのだから、当然とも言える。例えば彼女の肉親を斬り殺しただとか、大方そんなところだろう。

 彼女も仕事中だ。そう簡単に私情は挟まないだろう。何しろ信用が全ての監視屋だ。だが、ここで滅茶苦茶に罵倒を受けるのは、それはそれで構わないとも思う。今更そんな呪詛は痛くも痒くも無いし、それにどちらかと言えば、負の感情を露わにしている彼女の方がまだ耐えられる気がした。

 視界の右端で、カコの口が歪む。ああ、これはもしかすると、来るかも知れない。



「どうして?不思議なことを言うね。あたしがスクアーロを、救世主様を憎む?感謝しかしてないよ」


 昨日と同じ、冷めきった死んだ声、笑み。荒廃し、絶望に踏み躙られた痕跡は隠そうと思っても隠せない。隠す気も無いのかもしれない。

 もう少し追求するか。その為に開いた口は、バックミラーを視認した直後には別の用途へとシフトチェンジされていた。



「う”ぉおい、口閉じてどっかに掴まっとけぇ」



 ぎゃうん!!


 突然きられたハンドルに従ったタイヤが耳障りな音を立て、車体は傾きつつも強引にその進路を変える。



「追手を撒く。防弾使用にはなっちゃいるがタイヤを狙われたら終わりだぁ。いざとなったらいつでも飛び降りられるようにしとけぇ」

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