君と死ねる明日

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 『監視屋』がヴァリアーへ送り込まれる事が決まった時、良い顔をした隊員など一人もいなかった。例えそれが、ボンゴレリング争奪戦に絡む一連の謀反を企てたヴァリアーへと制裁としては信じられない程甘い罰だと分かっていても。

 監視屋。信用と裏切りが何層にも折り重なり、千切られ、また重ねられたような裏社会の秩序を、ビンディチェとはまた違った方面から守る者。脈々と代を重ねてきた監視屋の一族は、依頼さえあれば何処へでも人員を派遣し、対象を『内から』監視し、その報告の内容に責任を持つ。法外な依頼料の為依頼は多くは無いが、途切れることは無い。

 つまりヴァリアーは監視屋を受け入れること、そしてその監視屋がヴァリアーがもはや牙をむく意志が無いことを保証することによって、本部の疑心の目を断ち切らなければならないのだ。

 そうして派遣されたのが、カコ。到着したその日のうちに、彼女は屋敷中至る所に監視カメラ、盗聴器を仕掛け、屋敷のあちこちに現れては重要書類だのなんだのを勝手に漁っている。勿論秘密厳守の契約の下に、ただひたすら調査の為に。

 監視屋のカコとの接触自体に嫌悪感を抱くものも多かった。別段失礼な質問をするわけでもなく、あくまで明るくさっぱりと彼女が尋ねる事務的質問にさえ、誰もが何か引っ掛かりを覚える。

 ザンザスがこの件を承諾した今でも、こんな屈辱を受ける位なら底抗戦の末全滅の方がまだマシだという声は絶えない。仕方が無いだろうと言う容認派と断固として拒絶する否認派の対立まで生まれる始末だ。


 そしてその元凶は、一身に悪意を向けられながら飄々と笑っている。これが更に隊員の神経を逆撫でしている。

 スクアーロはここを離れている間に隊員達から報告は受けていたが、実際にこうして自分の部屋に当然のごとく居座る監視屋と接触して、初めてそれを理解した。



「チッ、俺に何の用だぁ。どうせ資料は粗方荒らし済みだろぉ。」
「まあね、君はヴァリアーのナンバーツーだから、ザンザス氏の次に調べた」
「だから、何の用だって聞いてんだよ」
「挨拶だけど」
「帰れ」
「いやーだね!君には大きな借りがあるんだから。勿論、あたしが個人的にね!」
「俺はてめぇなんざ知らねぇ」



 にっこり、と。カコが笑った。



「あん時は、ありがとさん」



 冷たく乾いた、死んだ笑み。それは意図的に作ったものか、意識せず零れたのか。まあ、こっちの方がお前にはお似合いじゃねえかぁ。巧妙に無神経を装った笑みよりは幾分マシだろう。

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