だって好きだから!

□♭26
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オレはキミを長イスに座らせて、

「どうして来てくれたの?」

と聞いた。

名前ちゃんは少し恥ずかしそうに微笑んで、

「いつも向かえに来てくれるから、今日は私が迎えに行きたかったの」

と言った。

「それだけ?」

オレが目を丸くしてそう言うと、

「うん、それだけ」

嬉しそうに笑った。

オレがじっと黙っていると、急に不安げな瞳をして

「いけなかった?」

と言った。

オレが小さなため息を吐いて

「ちょっとね」

と言うと、

「…明日からは図書館で大人しく待ってるよ」

と、しゅんとして俯いた。

オレはキミのそんな様子を見てクスッと笑うと、

「だって、オレにナニかされに来たんだと思ったから」

そう言ってキミの瞳を覗き込んだ。

「え…?」

驚くキミの唇を瞬時に奪い、“え”の形に開いた唇の隙間から舌を入れて絡ませた。

何度も吸ってキミを味わい、口内を犯し尽くす。

唇を離して、頬や鼻や瞼にチュッチュッとキスをして、耳や顎や首筋を舐めたり吸い付いたりした。

いつか付けたキスマークがすっかり薄くなっていたから、再び濃く色づかせた。




理性の利かなくなる寸でのところでオレはキミから離れて、

「今週の土日、部活休みなんだ。

自主練はあるけど。

会える?」

と言った。

「土日?」

「土曜日曜って二日連続で休みなんだ、珍しいでしょ。

でも、この後は冬まで休みナシだって。

だから、絶対会いたい。

土曜は午前中に自主練し終えたら自由だし、日曜も適当な時間に自主練するつもり、後は自由だから。

土曜の夜、泊まってもいいよ。親いないんだ♪」

名前ちゃんはポッとピンクに頬を染めて

「え…」

と言った。

「オレ、約束守りきったよ。

名前ちゃんも約束、守ってくれるよね」

キミの顔の正面でニッコリ微笑むと、

「…うん」

頬を真っ赤にして、小さくコクリと頷く名前ちゃん。

「やった!やったー!!

今日はこれで帰ろ、楽しみは週末にとっとくことにする♪」

オレはそうしてキミを何度も抱きしめた。

 







自転車を押しながら、キミと歩くキミの家までの道。

月明かりの中でオレは、

「いつから好きになってくれたの?」

と聞いた。

キミは瞬く星を見上げて、

「いつからかって聞かれるとはっきり答えられないけれど、

はっきりと気付いたのは昨日の放課後、一人黙々とシュート練習する神くんの姿を見てたとき」

ゆっくりとした口調でそう答えた。

「昨日は何しに体育館へきたの?」

「…本当のこと言うと、水島くんに断って、神くんにもごめんねって言うつもりだったんだけど…。

私ね、神くんを選ぶなんてことできないって思ってたの。

そんなの図々し過ぎるって思ってた。

いつから神くんのこと好きなったのかって本当に分からないんだけど、

ずっと水島くん水島くんて騒いでて、心変わりするなんてこと、自分自身が受け入れられなかったの…。

だから、何が何でも神くんとお別れしなくちゃって思って、その決意で体育館に行ったんだ。

さっさと済ませようと思って、全体練習?終了時間頃に行って…

でも神くんがいなくて、出鼻くじかれて…。

思い直して、また行って…。

その時に、神くんがあまりにも真剣で、それにすごくきれいなシュートで、それに目を奪われちゃって。

しばらく見てたんだけど、今日は言えないって思って、体育館を後にしたの。



それで…その帰り道にいろんなことを考えたの。

…考えたって言うより、いろんなことが溢れてきたっていうのかな。

今までのこと…神くんのこと…神くんと過ごした日々のこと。

私、シュート練習する神くんの姿を見て、始めて神くんがどんな人なのか知った気がしたの。

それでも、まだまだ神くんのほんのちょっとの部分しか知ってないと思うけど。

そして、神くんをもっと知りたいと思ってる自分に気付いたの。

私、神くんが好きってはっきり思ったの。

それでも、今まで散々焦らして来たから、自分の気持ちに気付いたところで言えるわけないって思ってたんだけど。

今日、神くんが私にいろんなこと話してくれたでしょ。

すごく優しい目で、すごく優しい言葉で、私のこと勇気づけてくれて。


そして、それでも私を好きって言ってくれて。




…私、本当に本当に神くんが好きって思ったの。

もうどうにも自分をごまかせないほどに、好きって。



それで、ずっとごまかしてきたんだって気付いたの。

本当はいつから好きになってたんだろうね…

本当によく分からないな…。

段々…なのかな。


多分私、神くんを好きになっていくのを、水島くんへの気持ちが薄れていくのを、上手く受け入れられなかったんだと思う。

頭が心に付いていけなくて、どんどん不安定になっちゃったんだね。


いつだか神くんが授業中にキスしてきたときに、ポンと頭が真っ白になって、少しだけ素直になれたの。

心の声に耳を傾けたら、私、神くんが好きみたいって聞こえた気がした。

でも、水島くんに返事してなかったし、神くんに付いていくこともできなくて。

ごめんね、あの時は。

変に頑なで、呆れたでしょ。

でも自分なりに精一杯で。

けど、もう自分の気持ちが分かったから」

「じゃあオレ…間一髪助かったんだね」

クスッと笑ってオレは言った。

やっぱりそうだったんだ。

ショックじゃないって言ったら嘘になるけど、でも実際キミの気持ちを手に入れたわけだから…。

オレと名前ちゃんはこうなる運命だったんだね…オレの思ってた通りじゃん。





キミの家の前でキミをそっと抱きしめて、

「名前ちゃんの気持ち、教えて」

オレはそう言った。

キミはオレの腕の中で、

「気持ち?」

と言った。

「うん。さっき、自分の気持ちが分かったって言ったでしょ」

「…言ったよ」

「教えてよ、その気持ち」

「…好き」

「え?」

「好き!」

「なんて?」

「もう〜!…大好きだよ、神くん」

オレはキミをギュッと抱きしめて、

「オレも…」

そう囁いた。

「ずっと一緒にいれるよね…」

「当たり前だよ。オレ、放さないもん。

だって…」






 Fin.





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