だって好きだから!

□♭26
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五限の始業を知らせる本鈴が鳴っていた。

名前ちゃんの唇を解放し、オレは

「どうする?」

両手でキミの頬を包んでそう言った。

「戻る?」

オレの問いに問いで返す。

「怒られるの覚悟で戻ろうか?」

オレがそう言うと、

「そうする」

コクリと頷いた。




オレたちは再び廊下を走り出し、本鈴の一分後には教室に飛び込んでいた。

そっと扉を開けて中を伺うとまだ始業していなかった。

担当教官も教室に到着していなくて、サササッと小走りに自席に戻り、前の席のヤツに聞くと、五分ほど遅れるから自習してるように、という連絡があったそうだ。

ホッとして二人で胸を撫で下ろした。


教科書を出しノートを開き体裁を整えたところで、オレは名前ちゃんに小声で話しかけた。

「今日、待っててくれる?」

キミはオレに視線を向けて、クスッと微笑み

「うん」

と頷いた。

「ありがと」

って微笑んで、オレたちは真面目に机に向かった。

聞きたいことは山ほどあったけど、帰りの約束を取り付けたことで取り敢えずは満足することにした。








六限の終了後に、

「じゃあメールするね」

と言うと、

「うん。待ってるね」

と微笑んだ。

体育館へ向かう途中、思わず鼻歌を歌ったら、

「どうした?」

って小菅が驚いていた。

オレは小菅ににっこり微笑みかけて、

「オレのこと好きって♪」

と言ったら、小菅は眉をひそめて

「え…?」

と言った。

「名前ちゃん、オレのこと好きになってくれたんだ」

と言ったら、

「…おまえらって、まだそんな段階だったんだっけ?

オレはもうとっくに本気で付き合ってるんだと思ってたよ」

と逆に驚いた。

「もうオレもダメだと思ったんだけど、やっぱりオレの愛が伝わったのかなぁ。

愛って何よりも強いんだね。

愛は勝つんだね。

ね、小菅♪」

オレは小菅の肩に手を回し、顔を覗き込んでニッコリと微笑んだ。

小菅はビクッと肩を震わせて、目を丸くした後、

「なんだかよく分かんないけど、取り敢えず良かったな。

もう忘れてるかもしれないけど、牧さんには報告しろよ。

随分心配してただろ」

と、笑って言った。

そして、

「それにしても神。

まだ両思いになってもないのにあんなことしてたのか?

よくもまあ…。

犯罪者だな、まったく」

と、呆れた顔をした。

「ははは!まあ、それでハートをキャッチしたわけだし、結果オーライだよね」

オレは、小菅の肩をポンポンと叩いた。

「ああ…」

小菅はつられて笑ってそう言って、すぐにハッとしたように

「そうか?そうなのか…?」

怪訝な顔をしてブツブツと呟いた。

けどまたすぐに、

「でも、嬉しいよオレ!」

ハハッと笑って言った。

「ありがと」

どこか実感が持てたなかった名前ちゃんとの関係。

小菅に話すうちに、ようやく少し現実味が湧いてきた。

ふわふわしていた気持ちがすとんと落ち着いて、そして温かくなった。



ロッカールームで牧さんにこの度の報告をした。

牧さんは、

「…そうか。良かったな!

こう見えて、どうしてるのかって心配もしてたんだぞ。

…わざわざ伝えてくれてありがとうな。

…大事にしろよ…」

最後はオレのためにうっすら涙を溜めてくれた。

まさかって思ったけど、後輩の恋愛沙汰にもこうして親身になってくれるのが牧さんて人なんだって、

そうだった、まるで親戚のおじさんみたいな人だって思って、オレはますます牧さんを好きになった。

本当、ずっと付いていきたいって心から思える人なんだよ。






練習終了後、オレは名前ちゃんにメールを入れた。

すると、

「すぐ行くからそこで待ってて」

と返ってきた。

オレは、そこってここ?ってロッカールームの長イスで思った。

そこに腰掛けてメールを打って、さて行こうと、立ち上がろうとした瞬間にメールが返ってきたから。

うーん、と画面をしばし見つめてし考え込んでみたけれど、無駄に動いて行き違いになっても困るし、とパタリとケータイを閉じた時、

再び携帯にメールが着信した。

開いてみると名前ちゃんからで、

「着いたよ」

ってある。

「着いた…?」

オレはそう呟いて、携帯を持ったままロッカールームの扉を開けてみた。


…いない…


どこに着いたの?

急に不安になって荷物を持ってロッカールームを飛び出そうとすると、今度は扉の向こうの廊下に名前ちゃんがいた。

「…どこにいたの?」

オレは呆然として問いかけた。

「図書館から来たんだけど、出る前に“着いたよ”ってメールを作成しといたの。

そしたら、走ってるうちに送信ボタン押しちゃったみたいで…。

ごめんね、びっくりした?

今着いたところなんだけど、神くんが飛び出してきたからビックリした。

心配してくれたの?」

上目遣いで謝るキミをムギュウと力一杯抱きしめて、

「良かった、消えちゃったかと思った」

なんて言った。

「消えたりしないよ…。

…ちょ、ちょっと苦し…い…」

そう言うキミをロッカールームにズルズルと引き込んで、今度はキュッて抱きしめた。

そしてオレはキミの耳元で囁いた。

「もう心配だから、明日からはオレが迎えに行くから。

今だって夜道を歩いてきたんでしょ。

ダメだよ、何があるか分からないんだから」

キミはオレの腕の中で、

「夜道って校舎の中だよ。誰もいないよ」

クスッと笑った。

「誰もいないから危険なんだよ。

名前ちゃんが襲われたりしたらオレ…」

「…神くん以外にそんな人いないと思うけど…。

でも、心配かけたくないから明日からはそうするね」

そう言ってキミはオレの背中に回した腕にギュッと力を込めた。
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