だって好きだから!

□♭25
2ページ/3ページ

「どういたしまして」

オレはそう言って、時計を見た。

もうすぐ昼休みが終わる。

「そろそろ行こうか」

「うん」

オレは残っていた飲み物を一気に飲み干して、キミを待った。

名前ちゃんも、喉が渇いていたのかゴクッゴクッと水筒を口に当て喉を鳴らして呑んでいる。

その様子を見ているうちに、ふと聞いておきたい疑問が浮かんできた。

さっきは全然答えてくれなかったけれど、落ち着いてる今なら答えてくれるかもしれない。

「昨日は何しに体育館へ来たの?」

キミは口から水筒を外し、キュッと蓋を閉めるとオレを見上げて言った。

「神くんに会いに行ったんだよ」

「本当?…なんか用あった?」

まさか…

オレは頭の中が真っ白になるのを感じて、頭を小さくふった。

「バスケ部の練習時間が終わる頃に一度行ったの。

その時は神くん、体育館にいなかったな」

「練習終了後…?

…ああ、Tシャツを着替えにロッカ−ルームに入ることがあるから。

昨日は、…確かに一旦ロッカールームに入ったかも」

オレはそう言いながら、昨日の練習後のことを思い出していた。

そうだ、監督から話があってそれから一旦ロッカールームに引き上げた。

「それで、もう帰っちゃったのかなって思ったんだけど…。

図書館に引き返す途中で、毎日自主練してるって確かに言ってたって思い出して、また行ってみたの」

「それで、オレに会いに来たのに声も掛けずに帰ったの?」

「うん。声、掛けられなかったから」

「気にしなくていいのに」

オレはそう言いながら微笑した。

微笑しながらキミが声を掛けられなかった理由を考えていた。

本当は水島を断って、オレにも“さよなら”って言いに来たんじゃないかって思った。

きっとそうだったんだろう、だから…。

オレは敢えて“それで用件は?”と聞くことをしないでおくことにした。

そして変わりに、

「オレ、カッコよかったでしょ!

女の子たちが騒ぐ理由、分かっちゃった?

また見に来てよ、試合の時とかもっとカッコイイから!」

なんて言っておどけて見せた。

するとキミは、

「うん、すごくカッコよかったよ!」

最高の微笑みをオレに投げかける。



…カワイイ…

名前ちゃん、オレ…。



ブンブンと首を振って、オレは気の迷いを振り切って、

「惚れた?」

なんて再びおどけて見せる。

「うん」

二割増しの微笑みを投げかけてくるキミ。

「…うそ…」

オレはもうおどけきることが出来なくなって、そう言って真顔でキミを見つめた。

キミの瞳を見つめると、その奥で輝く光に吸い込まれるそうになる。

意識がクラクラして、夢と現実の狭間にいるような妙な感覚に捕らわれた。



そんなオレの反応を見て、クスッと笑うと

「嘘だと思う?」

と言った。

そして、

「せっかく神くんらしくなったと思ったのにな。

自信満々、やっぱりそれが神くんらしいよ」

と言った。

「オレらしいって…。

オレらしく振る舞ったら、名前ちゃん、困るだけだと思うけど」

オレはしげしげとキミを見つめてそう言った。

あははっと笑って、すくっと立ち上がり

「行こう!」

振り返ってにこっと微笑んだ。



オレは座ったままキミを見ていた。

名前ちゃんは、いつまでも立ち上がろうとしないオレの膝の前に立って、

「行こうよ、遅れちゃう」

と言った。

オレはキミを見上げて微笑むと、背もたれから背をおこした。

「そうだね…。でもその前に…」

君の手首をぎゅっと握り、ぐいっと引いて腰に腕を回し抱きしめた。

「オレらしいってこういうことだよ。

オレらしくしていいなら、もう離さないよ。

オレ、名前ちゃんが好きで好きで堪らないんだ。

こういうこと迷惑だったらもう言わないで。

オレ、期待しちゃうから」

オレはキミの腹部に顔を埋めて、鼻から息を吸い込んだ。

キミの匂いが鼻孔の奥を突いて、甘く優しくオレを酔わす。

久しぶりで懐かしい、けれど新鮮なキミの感触。



これ以上抱きしめてたら…



そう思うと同時に、オレはキミの腰を引いて膝の上に座らせた。

肩を抱いて引き寄せ、キミの唇を指でなぞる。

「何も言わないとキスしちゃうよ。

久しぶりだから、止まらない。

…いいの?」

うっとりとキミの唇を眺め、顎に手を添えた。

「…、」

キミが何かを言おうと口を開いたとき、昼休みの終わりを知らせる予鈴がなった。

「急がなくちゃ!」

キミはオレの膝の上からぴょんと飛び降り、オレの手を握るとグイッと引っ張って走り出した。

走り出してすぐにオレが名前ちゃんの手を引く形になった。

確か、今日の五限の担当は厳しい先生だったから遅れるとまずい。

走りながらオレは名前ちゃんに、

「今日の放課後、待ってて。

もっと聞きたいことあるんだ」

と言った。

「何?」

「さっき言いかけたこととか…」

「それなら今、言うよ。

…私、神くんと一緒にいたいの。

他の誰でもなくて神くんと一緒にいたいの。

だから、キスしていいよ。

…そう言おうと思ったんだ」

ダダダダダ…



え?



…ピタッ!

「きゃあ!」

ドスンッ!

オレは足を止めて立ち止まり、そこへキミが突っ込んだ。

倒れ込みそうになるキミを抱え上げて、肩に両手を置いてまじまじとキミを見つめた。

「今、なんて?」

「イタタ…。

聞こえなかった?

キスしていいよって言ったんだよ。

…アタタ」

「…なんで?」

「なんでって…」

「どうしてキスしていいの?」

「だって好きだから…」

「え??」

「だから、好きなの神くんが。

だからキスしていいよ」

「…どうして??」

「だって、だって好きだから!」

「…」

よく分からないけど、取り敢えず今はキミの唇をオレの唇で塞ぐことにした。

じゃないと、永遠に同じことを聞いて、永久に同じことを答えさせることになるって思ったから。



オレが聞きたいのは、

…いや、理由なんていいや。

今は、お互いがお互いを求め合う始めてのキスを心ゆくまで堪能しよう…





後書き→
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ