だって好きだから!

□♭22
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夏休み最後の日の帰り、二人で立ち寄った夜の公園。

これはオレからのリクエストだった。

ブランコに腰掛けて、

「ちっちゃいー」

なんてはしゃいでたキミ。

オレも隣のブランコに腰かけて、

「嵌まったかも」

なんて言って。


それからベンチに並んで座って、オレは、

「名前ちゃん、後二日だよ。長かったな〜禁欲生活」

背もたれにもたれ掛かってグイッと伸びをしながらそう言った。

「本当、後二日だね〜。長かったな〜。お互いフリーに戻って出直しだね♪」

キミも夕焼け空を見上げながらそう言った。

「どの口がそんな意地悪いこと言うのかな〜」

オレは伸びをしていた姿勢から反動をつけて元に戻ると、キミの顎を手に取ってそう言った。

「約束だもん」

クスクス笑いながらそう言うキミに、オレは、

「悪いお口はお仕置きだよ」

って言いながらキミの唇を塞いで、

「悪いものは全部吸っちゃうから」

おでこを付けて唇を離してクスッと笑ってそう言って、ゆっくりゆっくりキミの唇や舌や口内を吸いあげたんだけど。


あの時の吸い上げが足りなかったのかなぁ…、手加減しちゃったのかも。

あの場で押し倒して、魂が抜けるくらいにしておけば良かった。




あの時もキミはオレに従順で、まるで嫌がることなくキスを受けてくれてた。

夕日がキミの頬を染めて、キミの瞳をいつもより煌めかせてた。

オレは、うっすらと開いたキミの瞳に吸い込まれそうになって…、ううん、もう完全にキミに溺れてたな、あの日のオレは。

だからキミを抱きしめて、ジッとしてることしかできなくなったんだ。




オレの腕の中でキミは何を考えていたの?

キミはあの日、水島に

「オレ、別れたんだ。彼女と」

って言われたんだって言ってたね。

まぬけな程、何も気付かないオレだったな。








そして9月2日。

オレたちの運命の日。

昼休み、久しぶりに一緒にお昼ご飯を食べた。

いつだか一緒にお弁当を食べた、図書館の傍のベンチで。

話すことは一つ。

オレたちの今後について。



「オレとの真剣交際、真剣に考えてくれたんでしょ」

「うん。考えたよ」

「じゃあ、晴れてリアルカップル誕生だよね」

「…今日で終わりにする」

「なんで」

「最初からそのつもりだったし、ずっとそのつもりで来たし、今もそのつもりでいるし」

「オレのどこが嫌なの?」

「神くんは悪くないよ」

「じゃあなんで?」

「…いろいろ考えたいし、私の問題」

「問題って何?…まだ水島のこと好きなの?」

「…それも、自分の気持ちを整理して考えたいところなの」

「オレはこのまま付き合いたい」

「神くん…」

「名前ちゃんのこと、離したくない」

「…」

「この二ヶ月、会えない日もあったけど、オレ、本当に楽しかった。

名前ちゃんも楽しんでくれてると思ったんだけどな。

オレの独りよがりだった?」

「そんなこと…」

「オレとこんな風に会えなくなっても平気なの?」

「そんな風に言わないでよ」

「そう言うことだよ。名前ちゃんと離ればなれの人生なんてオレ、考えられない」

「別に、全く縁が切れるって訳じゃないんだし…」

「…そういえば、考えたいって言ってたけど、その中にオレとの今後も入ってるの?」

「…うん」

「本当?じゃあなんで」

「だから心の整理をして、自分が今後どうしたいのか一人で考えたいの」

「名前ちゃんはオレのこと好きなのに」

「自身があるんだね」

「あるよ。そのつもりでこのつき合いだって始めたんだし、そのつもりであんなことしたんだし。

そうじゃなきゃ、名前ちゃんを苦しめただけのとんでもないヤツじゃん、オレ」

「…苦しくなんてなかったよ。そりゃ最初は…。

でも、神くんといて救われたこともいっぱいあった。

私を思ってくれる気持ちに随分甘えてもきたし、…申し訳ないくらい本当にそうだったと思う」

「いいよそれで。オレ、嬉しいし。

オレに甘えてればいいんだって、名前ちゃんは」

「ううん。私…」

「名前ちゃん!

名前ちゃんはオレといることが幸せなんだよ。

オレといれば絶対に幸せだから」

「どうしてそう、なんでもはっきり断言できるの?

分からないじゃない、そんなこと」

「分かるんだよ。オレには分かる。

名前ちゃんには分からなくても、オレには分かるの。

オレと名前ちゃんはお互い唯一の存在なんだ」

「…」

「絶対だよ。最初から分かってたし、オレにはね。

オレから離れようなんてバカな選択、しない方がいいよ」

「…バカって」



「名前ちゃん、オレ…。

オレ、名前ちゃんの笑顔が好きなんだ」

「え?」

「そうして笑ってくれるだけで、オレ、心の底から幸せなんだよ。

オレを幸せにしてくれるキミを、オレも、オレはもっともっと幸せにしたいんだ。

そしてオレの傍でまた笑って欲しい」

「…神くん」

「名前ちゃん」

「神くん…」

「名前ちゃん!」

「…ごめん」

「やだよ、ごめんて何?」

「きちんと心の整理をして、考えがまとまったら、…答えが出たら神くんにも伝えるから」

「…待ってろって言うの?」

「…待っててくれるなら」

「待てない」

「…そっか。…分かった」

「待たないよオレ。

このまま、名前ちゃんはオレのもののままだよ」

「…神くん」

「諦めないしオレ。

名前ちゃんはオレのものって決まってるし、オレが決めたし」

「…相変わらずだね、もう〜。

とにかく、お願いだから今日のところは引いてよ。

答えは出すし、神くんにもそれは必ず伝えるから」

「じゃあ、答えが出るまでこのままの関係でいよ」

「一人になりたいの」

「一人になんてなりたくないよ、オレ!」

「もう〜!バスケに没頭しててよ!

そしたらすぐだよ、あっという間だから」

「…寂しい…」

「寂しくない!」

「名前ちゃん〜!」

「話は終わり。

取り敢えず、今日までありがとう。

すごく楽しかったし、感謝してるよ。

私のこと好きでいてくれてありがとう」

「…今日までは彼氏と彼女だよね」

「仮のね」

「じゃあ、一生分のキスさせて」

「…あ」

キミの同意なんて待てなくて、オレは貪るように激しく、舐めるように優しく、何度も何度もキスをした。

途中で、

「こんな素敵なことももうできないんだよ」

ってキミに伺うように聞いたけど、キミはフッと笑っただけで何も答えなかった。




最初は息の仕方も分からなくて、苦しいって騒いでたね。

いつの間にか苦しいって言わなくなって、

オレの呼吸に合わせられるようにもなって、

オレとのキスを楽しんでくれてるようにも思えたりもしたけど。






その日の帰り、オレはキミを家まで送っていく道すがら、ずっとキミを説得し続けたけど、キミの心が変わることはなかった。

そして、水島とのことを話してくれたんだ。

オレはもう、驚いたなんてもんじゃなかったよ。





別れ際、オレはキミの家の前で最後のキスをした。

オレの愛情をたっぷり込めて、触れるだけの優しいだけのキスをした。
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