だって好きだから!
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二学期になって、席替えもなくオレと名前ちゃんは隣の席のままだった。
オレたちの交際期限が過ぎて、今日で一週間が経っていた。
一週間の9月2日、約束通りにオレはキミを解放した。
そりゃオレだって簡単には折れなかったよ、でも、どうしてもどうしてもって懇願されて…。
自分でも信じられないけれど、そうしてあげたいって思っちゃったんだ。
「オレのこと、好きになれなかった?」
って聞いたら、
「分からない」
ってキミは答えた。
「分からないって…」
って言ったら、
「考える時間をちょうだい」
って言った。
「アイツのことまだ好きなの?」
って聞いたら、
「…多分」
て答えた。
「なんでだよ」
ってオレが言うと、ぽつぽつとキミは話し始めたんだ。
夏期講座後期が始まって四日後の午後、名前ちゃんはいつものようにオレを待つべく図書館で勉強をしていた。
そこへ水島が一人でやってきて、名前ちゃんと少し離れた位置に席を取ると勉強を始めた。
一人。
その時はただそう思ったとキミは言った。
その日はそのまま何事もなく、名前ちゃんはオレからのメールの呼び出しに答えて図書館を出た。
オレは図書館の前でキミを待っていて、図書館から普段通りの様子で出てきたキミになんの違和感も持たなかった。
一緒に帰れることが本当に嬉しかったから、日常生活の中で唯一のキミとオレの二人っきりの時間だったから。
もしかしたらほんのちょっとキミが見せた普段と違う雰囲気に、オレは気付かないふりをしたかったのかもしれない。
キミも、オレがいつもの通りキスをしたって嫌がる素振りも抵抗もしなかった。
何の動揺も見せなかった。
何故ってオレが聞いたら
「水島くんのことは忘れなきゃいけないと思っていたし…」
と、俯いて言った。
その翌週の火曜の夜に、オレはキミを小さな夏祭りに誘って夜に二人で出かけた。
オレはバスケ部のジャージのままだったけど、キミは一足先に家に帰って、浴衣に着替えてきてくれたよね。
学校の傍の神社の小さなお祭り。
地域の大きな花火大会はインターハイ中だったから、オレには全く関係ない出来事で終わってしまったけど、この小さなお祭りがあるって知ったときはすごく嬉しかったな。
あの日だって…キミは本当に普通だった。
「少しだけど、花火上がるって」
オレがそう言うと、
「わあ楽しみ!」
って瞳を輝かせた。
オレたちは花火が上がるまでの間、ヨーヨー釣りをしたり、射的でキミがガムをゲットしたのを喜んだり、オレがキミのために大してかわいくもないクマのぬいぐるみをゲットして、
「神くんすごい!」
ってキミがはしゃぐのをオレは本気で喜んだりした。
なんで買っちゃったんだか分からないあの赤いタコの風船は、結構長持ちしてしばらくオレの部屋で浮かんでたけど、今はすっかりしぼんで部屋の隅でしょぼんとしてる。
捨ててしまえばいいんだけど、未だ捨てられないでいる…。
花火が上がり始めると、
「神くん、花火!」
ってキミが興奮してオレの袖を引っ張った。
「よく見えるところに移動しようか」
オレがそう提案すると、
「うん♪」
て、嬉しそうに楽しそうに微笑んだ。
オレたちは海岸で打ち上がる花火を見るために、出店の並ぶ沿道から逸れて、小高い丘に登った。
知らぬ間に辿り着いた場所だったけれど、ちょっとしたスポットだったようで、カップルらしき人々が一定の距離を取りながらあちこちにいた。
オレはなるべく人のいない方へとキミを連れて行き、そこで二人並んで空を見上げた。
「きれい?」
オレが聞くと
「うん」
大空に舞い上がる花を瞳に映して、キミが頷く。
「花火好きなの?」
「うん。…神くんはどう?」
「好きだけど、今はそれどころじゃないな」
「なんで…」
「名前ちゃんと一緒だから」
「…」
「花火の下でキスするの、ちょっと夢だったかも…」
オレはそう言ってキミの肩を抱き向かい合わせると、ゆっくりと唇を合わせていった。