だって好きだから!
□♭20
2ページ/3ページ
「大丈夫…?」
オレはキミを抱きしめながら、キミの言葉をリピートした。
オレってズルイ。
「…うん。聞いてくれてありがとう、神くん」
「話してくれて嬉しいよ」
「…うん」
オレの肩にキミの側頭部が沈んでいく。
キミがオレにもたれ掛かっているのを感じて、オレは猛烈に幸せだった。
愛しくて堪らなくて、キミの髪を撫でたり梳いたりした。
後頭部に頬を擦りつけたり鼻を当てたりして、キミを存分に感じた。
「名前ちゃん…」
唇をそっと合わせると、ゴクリと唾を飲み込む音がキミの喉の奥から聞こえた。
官能的なその響きがオレの脳髄を痺れさせる。
オレはキミの背中を抱いて、両のふくらはぎに腕を回してキミを抱き上げた。
そのままオレの開いた両腿の間にキミを納める。
横抱きにして上からキミの瞳を見つめると、恥ずかしそうに瞳を逸らしていくキミが、ますますオレの脳をを痺れさせる。
右手首と後頭部を拘束して唇を合わせ、繋がりを深くしていく。
大きく口を開けて大胆にキミを味わった。
甘く優しく歯を立ててそっと噛みつくと、キミの唇がうっすらと開く。
その僅かな隙間に舌をねじ込んで口内に侵入し、キミの舌の裏の付け根をぐるりとなぞった。
「っぁ…」
その時、本当に僅かな声だったけれどキミの口の端から吐息が漏れた。
苦しかっただけかもしれない、戸惑っただけかもしれない。
それでも喘ぎにも似た、熱のこもったその声がオレを夢中にさせた。
歯列をなぞり、頬の内側の粘膜を舐め上げる。
舌を絡めて吸い上げると、わざとイヤらしい音を立てて啜った。
口の周りが唾液だらけで頬が触れるたびにベチャっとしたけれど、それが嬉しくて楽しくてもっともっとって思った。
何度も堪った唾液を飲んでキミにも飲ませた。
キミの体をオレの唾液まみれにしたい。
不意にそんなことを思ってキミの唇から離れると、掴んでいた手首をオレの口の前に持ってきた。
手首の内側をぺろりと舐める。
「くすぐったい…!」
夢中で腕を引っ込めようとするのも意に介さず、オレは再びぺろぺろと舐め始めた。
唾液を舌に送り込んでわざとベチャベチャにしながら、徐々に舐める位置を下げていく。
舌を這わせたままキミの瞳を上目遣いに見上げると、ひたすらに戸惑ったような瞳で舐められている場所を見つめているキミ。
ようやくオレはイタズラが過ぎた気がして舌を離し、肩に腕を回して顔を引き寄せる。
冷静でいようと思ってたのに…。
耳元に唇を寄せてキミに囁いた。
「今日はここまで。いつかは全身オレ浸けにしちゃうから」
キミは背筋をゾクッとさせて体を強ばらせると、オレから僅かでも体を離そうと身をよじらせた。
そんなキミをギュッと引き寄せオレの体に密着させる。
「名前ちゃん」
そう呟いてキミの鎖骨の舌に吸い付いた。
薄い柔らかい皮膚を口の中に含み舌で舐めると、チュッと強く吸い上げた。
痛みを感じたキミが体をぴくんと反応させる。
チュパッと音を立てて解放すると、小さいけれどはっきりとしたオレの印が付いていた。
普通にしてたら分からないけど、上から覗くとはっきりと分かる位置に付けた。
こんなことをしたってしょうもないことは分かってるけど、拭いきれない嫌な予感がオレを支配していたのかもしれない。
この跡にキミが気付くのはいつのことかな、なんてクスリと笑いながら、オレはキミのYシャツの胸元を丁寧に閉じた。
抱きしめて名前を呼んで、キミが微笑んでくれる。
キスをしてキミを拘束して、甘い吐息まで聞けた。
幸せすぎる…。
その儚さをオレは十分に感じていたけれど、束の間でもこの幸せに身を委ねていたかった。
「名前ちゃん」
何度も名前を呼んだけど、何故か今日は“好きだよ”って一言が言えなかった。
暗闇が辺りを支配し始めた頃、名前ちゃんを家の前まで送り届けた。
オレは、
「明日からは待ってなくていいよ」
キミの頬を両手で包んでそう言った。
「私が変なこと言ったから気にしちゃった?
大丈夫だよ、きっともう来ないよ。
気まずそうにしてたもん。
私は勉強したいから図書館に通ってるんだし」
オレの瞳を見上げて意志強固にそう言うキミに、オレは負けた。
一緒に帰りたいって思いも後押しして、うんと頷いてしまった。
何としてでも帰せば良かったんだと思う。
それとも抗えない運命、だったのかな。
ただ一つ言えることは、オレにはその流れを止めることができなかったってこと。
名前ちゃんだって想像もしていなかっただろうし。
契約期間、残り二週間ちょっと。
終わりが見え始めた途端に、砂時計のように大きな変化がオレたちを襲う。
空になる方か、充たされる方か…。
オレたちの間に時が流れ始めた。
それから三日間は何事もなく過ぎていった。
オレたちの目には何も映らなかったし、オレたちの関係に何の変化もなかった。
オレは毎朝キミを挨拶代わりに抱きしめて、クラスメートはもうそんなオレたちに見向きもしなくなっていた。
放課後は仲良く一緒に帰って、オレは歩きながらカロリーメイトをパクパク食べた。
毎日、浅く深く口づけてはキミを感じ、キミにも存分にオレを感じさせた。
オレはあれから毎日同じところに吸い付いて、オレの跡を落とし続けた。
「お風呂に入ってビックリしたんだからぁ!」
二日間は抵抗していたけれど、三日目には諦めたように無抵抗になった。
「虫除け、ね♪」
オレがそう言っていつもより強く大きく吸い上げると
「虫なんていないよ…イヤッ…。
神くんが私とと付き合ってること…知らない人なんてきっともういな…イタッ…」
そう言って痛がりはするもののオレのちょっと手荒い愛撫を受け入れる。
「本当にオレのものになる日までのおまじない」
「…9月2日までだから…ね」
そう言いつつもオレを受け入れてくれるんじゃないかって心のどこかで思ってて、その一方でとんでもない焦りを感じていた。
だからそんなものを付け始めたんだって今なら分かる。
キミの話しによれば、事が動き始めたのはこの次の日の放課後。
まったく気付かず残りの日々を過ごしていたオレもオレだけど、気付かせなかったキミもキミだよね。
それだけヤツへの思いが本気だったってこと?
今のオレには、キミの気持ちがまるで分からない。
後書き→