だって好きだから!
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皆さんご存じの通り、オレたち海南大附属高校男子バスケットボール部は、インターハイ準優勝校となった。
事実は事実として受け止めるしかないけれど、負けるって悔しくて堪らない。
もっと練習して、監督のしごきにも耐えてもっともっと強くなろうと思った。
オレがチームに貢献できることをどんどんやるんだって思った。
悔しくて堪らない中で、それでも嬉しいこともあった。
それは牧さんや高砂さんが引退しないで冬まで残ること。
あの人たちの背中を追ってオレたちは来た。
まだまだ圧倒的なその背中を追わせて欲しいし、そうできることが心から嬉しい。
残り半年もないけれど、精一杯頑張って、牧さんたちから“常勝”の看板を安心して任せられるって言って貰えるようになるんだ!
…武藤さん?
どうだったかな……。
多分、残るんじゃない?
オレたちは、更なる高みを目指してチーム一丸、日々鍛錬していくことを誓った。
オレたちは、インターハイから帰ってもすぐには暇にならなかった。
優勝は逃したと言っても、バスケ部始まって以来の快挙だったから、挨拶その他いろいろあって、名前ちゃんに簡単には会えなかった。
練習もちゃんとあるし、監督は少し落ち着いたら休ませてやるって言ってたけど、…本当かなって感じだ。
オレと名前ちゃんの関係は、インターハイ中からの引き続きで、メールの遣り取りばかりだった。
オレは名前ちゃんに写メを送ってって頼んで、オレがいない間のことや、帰ってきてから数日の名前ちゃんの様子をそれで知ることができた。
それにより、名前ちゃんが森村たちと映画やショッピング、カラオケ、お泊まり会などをしていることが分かった。
本人撮影のせいか、最初の頃はオレにとってはどうでもいい画像ばかりが送りつけられて、
「名前ちゃんの姿を送って」
そうオレがお願いメールを出すと、次からは誰かに撮影してもらったらしい本人画像が送られてくるようになった。
その辺りからは、かなり頻繁に写メが届くようになった。
多分、森村を初めとする名前ちゃんの友達が、面白がって散々撮って送りつけてたんだろう。
本人がまったく撮影に気付いてる様子のないものや、アイスバーにかじりついてるのとか、寝顔のどアップまでもあったから。
ニヤニヤしながら、舐めるように眺めさせて貰ったよ♪
消してって言ったってこれはオレの宝物するから絶対ダメだよ!
お泊まりは、名前ちゃんたちの仲間内の一人の家にお邪魔していたようだった。
海の近くのその家で、昼間は海遊び、夜は花火をしている様子を送ってくれて、楽しそうにしているのがよく分かって、オレの気分も和んだ。
願わくば、オレんちにも泊まりに来てほしい。
そしたら…一晩中寝せないけどね♪
名前ちゃんはどんなときでもかわいく写ってるけど、やっぱり本物には適わなかった。
一刻も早く会って、抱きしめて、キスして、存在を確認しあいたい。
オレの中で、その思いが確かに募っていく。
このままだとお盆にそのまま突入し、まるきり会えないまま夏期講座(後期)の初日の朝に学校で再会、ということになり兼ねなかった。
お盆は人の集まる家のオレんち、名前ちゃんは家族と両親の実家へ遊びに行くと言っていた。
なんとかして会いたいと思っていたら、お盆に入る前日、監督の都合で練習が早めに終わることになった。
オレはロッカールームから名前ちゃんにメールを送った。
“今から会いに行く”って。
キミからの返信を待たないで、オレは飛び出すようにキミの家へ向かった。
いなかったらどうしようなんて、思いもしなかった。
ただ真っ直ぐにキミに会いに向かっていた。
すっかり通い慣れた道、しばらくご無沙汰だった道。
ペダルを踏んで軽快にとばし、あっという間にキミの家の傍までやってきた。
キミの家のある路地に入る。
前を見ると、ちょうどキミの家の門扉のあたりに人の姿が…。
…もしかして!
オレは漕ぐスピードをさらに速める。
風が目にしみたけど、目を凝らして一秒でも早くその人物を確認しようとする。
オレの姿に気付いたのか、前方のその人物がオレの方をまっすぐに向いた。
一漕ぎ一漕ぎ近づいて、
「名前ちゃん!」
自転車から飛び降りて、オレはキミに抱きついた。
ガシャンッ!
自転車の倒れる音が聞こえたけど、そんなことどうでもいい。
「会いたかった」
夢中で抱きしめて、内側も外側もオレの全身をキミの匂いで満たしていく。
「おかえり、神くん」
キミがそう言ったのをオレは頭の片隅で聞いたような聞かなかったような…とにかく夢中で抱きしめた。
思い立ったようにキミをオレの体からひき剥がし、キスをしようとすると、
「ダメ」
と慌てて口を押さえて拒否された。
「したいよ、我慢できない。名前ちゃん」
って言ったけれど、
「今の状態もアウトなんだから!」
と言って取り合ってくれなかった。
「どっか行こ。海とか公園とか、二人になりたい」
オレはキミに懇願して、ようやく聞きいれてもらった。
「お母さんに言ってくる」
そう言って家の戸口に戻り、一声掛けて戻ってくると、
「お母さんが出てくるって…」
と困惑顔でオレに伝えた。
名前ちゃんがそう言った直後に、玄関からいそいそと出てきた名前ちゃんのお母さん。
「あら、元気だった〜?
バスケ部すごいわねえ。
緊急連絡網、回ったのよ〜!
神くんが活躍したから勝ったんでしょう!
いいの、遠慮なんてしなくって!
おばさん、分かってるから。ふふふ。
ようやく少し時間出来たの?
帰ってからも忙しかったんでしょう?
あっちにもこっちにも挨拶巡りに駆り出されるのよねえ。
名前ちゃん、寂しかったんじゃない?
お友達と遊び歩いてたようだったけど。
良かったわね、やっと…」
「お母さん!もういいから、入って中に。
散歩に行ってくるから!」
お母さんの背中をぐいぐいと押して、家に戻そうとする名前ちゃん。
「あら…ちょっとしかしゃべってないじゃない。
なにかしら、まったく」
「あ、…お借りします」
オレはようやく一言発して頭を下げた。
「じゃあ、またね♪
…夕飯までには戻るのよ」
そう言って、笑いながらお母さんは小さく頭を下げて家の中へ入っていった。
「やれやれ、いつものことながら…」
名前ちゃんが腰に手を当てて小さくため息を吐く。
「…名前ちゃん、オレがいなくて寂しくしててくれたんだね♪」
「…? あれはお母さんが勝手に…」
「いいよ、無理しなくて!
オレもうテンション最高ー♪」
「ええ?だからあれは…」
「行こ!海、行こう♪」
オレは名前ちゃんを自転車の後ろに乗せて、海の方向へとハンドルを切った。