だって好きだから!

□♭15
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家に帰ると両親が戻っていて、名前ちゃんが帰った理由を聞かれた。

「まさか…」

と母親に言われたけど、まさかまさかだもん。

オレ、そんなに悪いことしてないもん、多分。

「今日は早く帰るように言われてたんだよ、明日も学校なんだからそんなに引き留めたら悪いだろ」

そう言うと、

「そうなの」

とあっさり納得した。

「送ってったとき、名前ちゃんのお母さんに会ったから水ようかんのお礼言っておいたよ」

オレがそう言うと、

「よし!」

と言って少しご機嫌になった。


そしてオレが冷蔵庫から出してきた冷茶を飲んでいると、

「お父さんお父さん。

名前ちゃんて、宗が幼稚園の年長さんの時の先生に似てると思わない?」

母親がソファーに腰掛けてコーヒーを飲んでいる父にそう話しかけていた。

父親の手には○○屋の水ようかん。

コーヒーと水ようかんか…。


目を輝かせて興味津々の母親に対して、オレの幼稚園の時の先生なんて覚えてるわけない父親は

「うーん…」

と曖昧な返事をした。

「そうよ、ピンと来たもの。

宗が妙に執着した…名前が思い出せないわ…。

宗が卒園するのと同時に結婚されて…、とにかくそういう先生がいたのよ。

いっつもニコニコ笑っててかわいい先生だったんだけど。

その先生に似てたわ、名前ちゃん。

まさか、あの子ったら初恋引きずってるのかしら?

嫌だわ…とんでもない執着心じゃない?

確かに宗ってしつこい子だけど…。

お父さん。私、心配になってきちゃった…。

嫌なら嫌ってはっきり言ってって名前ちゃんに言っておかなきゃ。

名前ちゃんも宗のこと好きだっていうなら何の問題もないけど…。

だって昔、買って上げたおもちゃや人形だって、コレと決めるとそれしかないみたいになってたでしょ。

ぼろぼろになっても離さないのよ、あの子。

私、心配だわ…」

「…初恋を引きずってるかどうかは分からんが、そういうタイプが好みなんじゃないのか…?」

「ああ、そうね、そうかもしれないわね」

「良さそうなお嬢さんだし、まさか好きでもないのに付き合ったり家に来たりしないだろう?」

「…私もそう思うんだけど。

そうなのよ、このまま宗と仲良くしてくれたら嬉しいの。

だけど…なんとなく無理してる感じしなかった…?」

「…そうかな?でもまだ高校生なんだし、嫌なら自然と離れていくだろう?」

「そうよね。ふられることも経験して、いい大人になってもらわないとね」

「ああ。嫌なら嫌、嫌いなら嫌いってはっきり言ってもらった方がいいんだ」

「若いうちは多少の痛い目にも合っておかないとよね」



「コホン…」

オレは静かに咳払いをした。

両親が顔を上げ、ダイニングテーブルに腰掛けているオレに注視すると、

「あら、いたの?」

なんてすっとぼけたことを言う。

だいたい幼稚園生の時のことなんて覚えてるかよ。

先生のことはうっすら覚えてるけど、今の今まで引きずってるわけないだろ。

名前ちゃんに無理はさせてるけど、今にオレを好きになるんだから、とにかくしばらく静観しててほしい。


やっぱりさっさと帰して正解だったな。

帰したくなかったけど家にはこれがあるからね。

オレ、高校出たら一人暮らししよ。

名前ちゃんが一生帰らなくてすむ家にしよ。

そしたら毎日今日みたいなコトが出来るんだ…♪

…その頃にはもっといろんなコトができるようになってるはず…。

下着以上の物は身につけちゃイケナイってルール作ろうかな。

絶対反対してくるから、そのときはキャミソールまでOKって言おう。

特別ルールでエプロンは可、なんて言っちゃたりして。

だって油跳ねたら危ないもん。

もしそんなことになったら…そしたらオレが患部を舐めたり吸ったりして痛くないようにしてあげるけどさ。

あ、それって楽しいかも…。

でもでもやっぱり名前ちゃんが痛がるのなんて嫌だから、油を使うときだけはジーパンも穿いていいよって言おう。

ジーパン脱がせてみたいし…。

でもそれは二人の関係がかなり慣れてきてからだな…。

その頃にはもう…名前って呼んでたりして…ふふ。


でも、最初はやっぱりスカートがいいよね。

スカートを捲り上げたいし、捲れたスカートの………。



両親いるから今はここまでにしよ。

後は夜、寝る前に…。


「名前ちゃん、かわいいお嬢さんだったわねぇ。

宗にはなんだかもったいないみたい。

なるべく長く仲良くできるといいわね」

母親がオレのご機嫌でもとるつもりか、薄い笑いを浮かべてそう言った。

ところどころ、気になる発言してるけどね。

「そのつもりだけど」

オレは冷茶をごくりと飲んで言った。

「大切にするんだぞ」

水ようかんをぱくりと食べて父親が言った。

「してるよ」

オレがそう言うと、ソファーの方から両親が笑い合う声が聞こえてきた。


オレがガタッとイスから立ち上がると、ピタッと笑いが止まった。

オレはグラスを片手に両親の向かい側のソファーへ移動する。

水ようかんを一つとって無言で食べ始めた。

その様子をじっと見ていた母親が、

「また連れてらっしゃいよ」

ニッとしてそう言った。

「オレ、しばらく忙しいから」

インターハイが終わったら連れ込むけど、なるべく両親のいないときにしようと思った。

特に母親のいないときがベストだと思う。


「ふ〜ん、つまらない。ねえお父さん」

「え…?そ、そうだねぇ…」

父が母に愛想笑いを浮かべる。


…。

名前ちゃん、何してるかな…。

オレは今、キミのくれた水ようかんを食べてるよ。

明日学校で会えるけど、さっき別れたばっかりだけど、それでも今すぐ会いたいよ。

何をするときもキミと一緒にいたい。

ずっとずっと連れて歩きたい。

名前ちゃん…。



「オレ、勉強する」

そう言ってオレは席を立った。

キミより成績が悪いなんてことのないようにしないとね。

格好悪いの主義じゃないんだ♪


「夕飯できたら呼ぶからすぐ下りてらっしゃいよ」

母親が呼びかける声が背中から聞こえた。




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