だって好きだから!

□♭15
1ページ/3ページ

「ごめん…帰らなきゃね…」

オレはそっと目を開けて体を名前ちゃんから離してそう言った。

「…うん」

驚かせちゃったな…。

いつも驚かせてるけど…。

肩で息をして鼓動を落ち着けようとしているキミ。


オレは名前ちゃんの手を取って部屋の戸を開ける。

階段を下りて靴を履き、玄関を出て自転車を用意した。

自転車の後ろにキミを乗せてキミの家までペダルを漕ぐ。

行きにジェットコースター効果を狙った坂道も淡々と上って下りた。


キミの家に近づいたとき、オレの後ろでキミが言った。

「神くん。私、今日とっても楽しかったよ」

え…?

「神くんが私のことすごく好きって分かったよ」

あ…。

「家で一人で泣かないでね」

ん…?

「私のせいじゃないのは分かってるけど、私のせいっぽくてやだもん」

…。

「明日も学校だね」

…。

「神くん、今日はありがとう。

おうちの人によろしくお伝えしてね」

「…名前ちゃん、もしかしてオレのこと好き?」

「…なんで?」

「なんとなく…」

「どうかな?そうでもないと思うけどな」

「そっか…」

「うん」

「好きなんだね」

「…そうでもないって言ったと思うけど?」

「もう好きでいいじゃん」

「ダメ」

「好きになってよ、そろそろ」

「付き合い始めてから二日しか経ってないけど」

ふふふと笑う名前ちゃんの声がする。

「二学期のテスト前も一緒に勉強しよ」

「うん。…ん?二学期は未定」

「騙されないかー」

「9/2までだもん」

「良いじゃん、このままずっと一緒にいよ?」

「…」

「決定ね♪」

「好きになったらね」

「なるから決定」

「二ヶ月後のことは今は考えないでって神くんが言ったくせに」

「そうだっけ?」

オレの後ろでまた、ふふふって笑い声がした。





名前ちゃん家の前に着くと、名前ちゃんが玄関先でお母さんを呼んだ。


緊張!


名前ちゃんのお母さんは名前ちゃんとそっくりの笑顔をする人だった。

やっぱり名前ちゃんと同じようによく笑った。

顔の作りは少し違うから、名前ちゃんはお父さん似なんだなと思った。

オレは水ようかんのお礼を言った。

すると何故かオレのことをしきりに感心してくれた。

お宅のお嬢さんに人には言えないことをたくさんしでかしてるオレとしては、その感心しきりな態度が心に痛くもあった。

自分の親より大きな存在に思える名前ちゃんのお母さんにオレは毒を抜かれそうだった。


「お母さん、もう神くん帰るから」

名前ちゃんがオレの前に立ってそう言った。

「あら、なあに?まあ…」

「はいはい、お母さんが家に入らないと神くん帰れないからね」

「…そお?じゃあ、またね神くん。

よろしくね、末永く…」

名前ちゃんのお母さんは人差し指で名前ちゃんを指しながら、名前ちゃんにぐいぐい押されていった。

玄関の前でニコニコしながら小さく頭を下げて家の中へ入っていった。

オレはもちろん大きく頭を下げる。


「まったく…」

そう言って小さくため息を吐く名前ちゃん。

「どうしよオレ…」

オレは口元に手を当てて考え込む。

「どうしたの?」

名前ちゃんがオレの顔を下から覗き込む。

「末永くよろしくされちゃった、名前ちゃんのこと」

オレが深刻な顔でそう言うと、

「そんなこと全然気にしなくていいから、社交辞令だよ」

笑いながらそう言う。

「ううん、そう言うわけにはいかないよ。

オレって義理堅い人間だし、そういうこと有耶無耶にできないんだ」

「大丈夫、お母さんには私から言っておくから」

「なんて?」

「仮だったってかな?」

「ダメだよそんなこと言っちゃ。

お母さんビックリしちゃうよ、卒倒しちゃうよ?

今日から仮は解消で本気で付き合おう、真剣交際始めよ。

オレ、こんなの耐えられない」

オレは至って真剣なのに名前ちゃんは笑って、大笑いして全く取り合おうとしない。

そして、

「また明日ね、神くん♪今日はありがとう」

と言った。

「名前ちゃん。真剣交際の件、前向きに考えといてね」

オレはキミの肩をがしっと掴んで真剣なまなざしで言った。

「分かった、また明日☆」

キミは相変わらず笑ったままでそう言った。

「うん♪じゃあまた明日ね」

オレは自転車に乗ってペダルを漕ぎ出す。

振り返るとキミが見送っててくれた。

オレが大きく手を振ると、キミは顔の横で手を振り返した。



真剣交際の件、分かったって言ったよね♪

オレ、そういうの有耶無耶に出来ない性格だから…さ!
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ