だって好きだから!

□♭14
1ページ/2ページ

名前ちゃんから離れるのは名残惜しかったけれど、オレは思いきって体を持ち上げた。

オレが体を離すと、それまで固く閉じられていたキミの瞳がゆっくりと開かれていく。

今、目覚めたかのようにぼんやりとしたまなざしを天井に向け、それからオレに視点を移してくる。

頬が上気したようにほんのりと染まっている。

「苦しかった?」

オレが上から瞳を覗き込んでそう聞くと

「ううん」

と首を横に振った。

そしてそのまま恥ずかしそうに顔をオレと反対側に向けてしまった。

「こっち向いてよ」

オレがクスッと笑ってそう言うと、今度は仰向けにしていた体ごと向こう向きになった。

「そっち向いたらオレ寂しいよ」

オレはクスクスと笑ってキミの背中に向かってそう言った。

「名前ちゃん、こっち向〜いて!」

オレはキミの肩を掴んで仰向けに倒した。

オレが上から顔を覗き込むと、パッと両手で顔を覆い隠す。

オレはまたクスッと笑ってしまった。

だってあまりにかわいすぎる。

「顔見せて」

そう言ってキミの手首を掴んで両腕を開く。

「見たいんだ」

オレがニッコリ笑ってキミの顔を覗き込むと、不安そうな上目遣いでオレを見上げた。

「どうしたの?」

オレが微笑むと

「あんまり恥ずかしいことしないで…」

かすかな声でそう言った。

「恥ずかしくなんてないよ」

オレはそう言ってクスッと笑った。

「恥ずかしいの」

名前ちゃんはそう言うと今度はくるりと俯せになってしまった。

「名前ちゃん、顔見せてって言ってるでしょ」

オレはキミの背中に手を置いてゆさゆさと揺さぶった。

キミの体はほんのちょっと押しただけで思いがけず大きく揺れた。

女の子の体って華奢だなってつくづく思った。

オレが背中に置いた指の先に何の他意もなく力を入れると、

「わきゃ!?」

と体をよじらせた。

?? 

何事が起きたか分からなかったオレは、もう一度同じ動作を繰り返す。

「いや、くすぐらないで!」

と言って突然オレの膝ににしがみついてきた。


くすぐったかったのか…


「こっち見ないからだよ」

オレは取って付けた理由を言ってキミの腕を取った。

「さわらないで」

腕を反射的に引き抜き、またオレの膝にしがみつく。

「名前ちゃん顔上げて。顔見せてよ」

拒絶されてるのか求められてるのか分からないまま、オレはただひたすらにキミの笑顔を求めた。

オレはオレの膝に乗っているキミの後頭部をそっと何度も撫でた。

「名前ちゃん、いい子だから顔上げて…」

いい加減不安になったオレがそう呟くと、やっと背中を浮かし頭をオレの膝から持ち上げた。

オレは直ぐさま肩を掴んで上体を持ち上げる。

カクンと首がしなって顔がオレに向けられた。

名前ちゃんの上目遣いの目はイタズラに笑っていた。

その顔を見たオレは心底安心した。

そしてオレの中にもまたイタズラな感情が芽生えていく。


「もうしないでね、くすぐられるのなんて子どものとき以来なんだから」

そう小さく口を尖らすキミに、

「いい子だね、名前ちゃんは。

オレに感じちゃったんだから」

と最大級のスマイルで言った。


小さく尖らせていた口は徐々に力を無くし、ぼーっと開かれていく。

イタズラな瞳は楕円形に輪郭を変えた。

「な、何?

…やだ、変なこと言わないでっ!

やだーー」

両手を頬に当てて面白いほどに取り乱している。

「本当だよ、ちょっと触っただけで体中敏感になちゃって。

オレのこと好きなんじゃない?

…なんなら今からしようか?」

ふふん、オレは飽くまで余裕の表情を貫く。

「神くんの意地悪!…もう知らない!」

泣きそうな顔をして訴えるキミをオレはジーッと見つめた。

オレの視線に耐えられなくなったように後退りをし、ベッドの縁まで行くとくるりと向きを変えた。

「帰る」

俯いてそう言うとベッドから下りようとする。


そのままベッドを下りて荷物を纏め部屋を出て行き、オレとは金輪際口を利かない。

ほっといたらそうなってしまうので、もちろんオレはそれを阻止する。

手首を掴んでぐいと引き寄せ背中からふんわりと抱きしめた。

帰すわけない、放すわけないよ。


「ウソだよ。名前ちゃんがオレに意地悪したから仕返ししたんだよ」

耳に口を押しつけてそう囁くと、

「意地悪なんてしてないじゃない」

棘のある口調でそう言った。

体に力を入れてオレを拒絶してる。

「顔見せてくれなかったじゃない」

「そんなの…」

「オレには意地悪に感じたの。

…ううん。絶対意地悪だった、意地悪したでしょ」

「…よく分からない、そんなこと」

「もうしないでね」

「…」

「しないって言って」

「…うん」

「良かった♪

それならオレも意地悪しないよ。

じゃあこっち向いて」

オレのお願いに戸惑いながらもゆっくりと着実に体の向きを変えていくキミ。

不安と不満を半分ずつ同居させた表情でオレを目だけで見上げる。

オレはそんなキミを微笑みで迎えた。

手のひらをキミの頬に添えてオレに向けさせると、その顔を愛おしく見つめる。

目も鼻も口も何もかもが愛おしい。

キミのすべてが愛おしさで出来てる、そう言ったって全然過言じゃない。

喜怒哀楽のほんのちょっと激しいところ…これはオレがそうさせちゃってるのかな…も、愛おしくて堪らないんだ。




「…神くんてきれいな顔だね」

オレに見つめられていたキミの口から言葉が漏れた。

「ん?」

予想外の言葉にオレの目が丸くなる。

「出来ればかっこいいって言われたいんだけど」

ねだるような目でキミに言う。

「かっこいいってみんな言ってるよ」

ふっと笑ってキミが言った。

「みんななんか…そりゃ気分は悪くないけど…、みんなより名前ちゃんに言われたいんだけど。

名前ちゃんにかっこいいって言われたくて頑張ってるんだから」

そう言ったオレをふふふと笑うキミ。

「言ってよ」

オレはおねだりをする。

「かっこ…いいよ」

「どれくらい?」

「すごく…?」

そう言ってまたふふふって笑った。

「知ってる」

そう言ってオレはキミをギュッと抱きしめた。

ありがとう…って耳元で囁いて、キミのかわいい耳たぶにチュッとわざと音を立ててキスをした。

ピクッとキミの体が小さく痙攣する。

「かわいいよ、名前ちゃん」

耳元でそう囁くと、

「ありがとう」

恥ずかしそうにそう言って、オレの胸におでこを押しつけた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ